前年度までの研究で,マグマの組成と噴火の規模との間には明確な相関が見られないことが明らかになった.これは,富士火山では深部と浅部の2つのマグマ溜まりが存在し,噴火の規模が深部マグマの性質だけでは決まらず,浅部にある低温マグマとの相互作用に依存しているためだと考えられる.そこで,本年度は溶岩流噴火と爆発的噴火の試料の比較を行い,噴火様式とマグマの組成との間の関係の解明に取り組んだ. 溶岩流噴火の噴出物としては焼野溶岩とボーリングコア試料5枚の計6試料を,爆発的噴火の試料としては最近3500年間の18回の降下火砕物試料について分析した.いずれも富士黒土層形成以後の新富士期の火山活動の噴出物である. 溶岩流試料とテフラ試料では,SiO2量という観点からは両者の組成範囲はほぼ等しいが,同じSiO2量で見るとTiやKが溶岩流試料の方がやや高めの傾向にある.組成範囲が明確に分離しているわけではなく,両者が重なっている部分も多い.この結果は溶岩流のほうが,テフラよりも高圧下で分化したマグマの寄与がやや大きいことを示唆している.次に,かんらん石斑晶と斜長石斑晶のうち分化程度が低い側の組成に着目し,これらの分析結果に鉱物学的温度計と含水量計を適用して,それぞれの噴火で活動した深部マグマ溜まりの温度と含水量を推定した.結果は,溶岩流試料のほうが,マグマの温度が高く含水量は低くなった.続いてマグマ溜まりの圧力を仮定した上でそこでのマグマの密度を計算したところ,溶岩流を生じたマグマのほうが系統的に高密度であることが示された.このことから,深部マグマ溜まりからのマグマ上昇のトリガーが両者で異なっていることが示唆される. 今回の分析では, 温度と含水量の推定誤差が大きいため,マグマの組成や状態と噴火様式の関係性はまだ確定的ではない.今後,分析するデータを増やしてさらに検討をすすめる必要がある.
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