研究課題/領域番号 |
16K01315
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
石崎 泰男 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (20272891)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 玄武岩質プリニー式噴火 / マグマ溜り |
研究実績の概要 |
本課題では、男体火山で約3万年前に発生した玄武岩質プリニー式噴火とその堆積物である男体小川テフラ(Nt-Og)を研究対象としている。Nt-Ogは高密度の玄武岩質火山弾を主要構成物としており、プリニー式噴火の堆積物としては特異な産状をもつ。本課題では、高密度火砕物を遠方輸送した噴煙の性質の解明と、噴火の発生に至るまでのマグマプロセスの解明を研究目的としている。 平成28年度は、Nt-Ogの模式露頭である日光市所野(男体火山の東方11 km)で過去に採取した試料を用い、テフラの粒度組成と構成物組成、火砕物の薄片記載、全岩及び鉱物化学組成の分析を行い、噴火に至るまでのマグマ溜り内でのマグマプロセスについて検討した。 本質物の岩石学的解析により、Nt-Ogが斑晶に乏しいデイサイト質軽石(DP;全岩SiO2量61.8~63.7 %)、斑状の安山岩~玄武岩質スコリア(AS;同51.6~52.7%)、斑晶に極度に富む玄武岩質火山弾(BB:同46.7~51.7 %)から構成されること、噴火の進行に伴いDP、AS、BBの順に噴出したことが明らかになった。これは、噴火前のマグマ溜りが、デイサイトマグマ層、安山岩マグマ層、玄武岩マグマ層が上下に配置した層状マグマ溜りであったことを示唆する。ハーカー図上では、多くの酸化物含有量がSiO2量52%付近で屈曲しており、BBの斑晶中のガラス包有物の組成もこの屈曲点付近に点示される。マスバランス計算からは、SiO2量約52%の親マグマにカンラン石と斜長石を濃集させることでBBマグマを形成できること、また、この親マグマから斑晶鉱物を除去することでASマグマとDPマグマを形成できることが示唆された。このように、単一の親マグマからの結晶の濃集・除去が並行して進んだことにより、Nt-Og噴火を引き起こしたマグマ溜まり内の層構造が形成されたと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、男体小川テフラ(Nt-Og)を研究素材とし、高密度の玄武岩質火砕物を遠方まで輸送した噴煙の特性と、高密度火砕物を噴出させた玄武岩質プリニー式噴火の発生に至るまでのマグマプロセスの解明を目的としている。当初の計画では、平成28年度には、Nt-Ogの分布調査を行い、高密度火砕物を輸送した噴煙の特性について検討する予定であった。しかしながら、模式露頭においてNt-Ogの本質物の岩質や全岩組成の多様性とそれらの噴火推移に伴う変化を明確にすることが、広域に分布するNt-Ogの同定を行うために不可欠な基礎データとなるため、当初の研究計画の実施順を変更し、平成28年度には主にNt-Ogの本質物についての岩石学的研究を実施した。この研究により、Nt-Ogを形成した噴火の発生機構を明らかする上で重要な知見として、(1)噴火前のマグマ溜りが、デイサイトマグマ、安山岩マグマ、玄武岩マグマが上下に配置した層状マグマ溜りであったこと、(2)マグマ溜り内の多様なマグマが単一の親マグマからの結晶の濃集と除去により生成されたことが明らかになった。男体火山では、1.7万年前に、Nt-Ogを形成した玄武岩質プリニー式噴火とは対照的なデイサイト質プリニー式噴火も発生している。このデイサイト質プリニー式噴火の推移とマグマ供給系に関する論文も受理され、出版されることとなった。デイサイト質プリニー式噴火の推移・マグマ供給系に関する知見と、本課題で得られた玄武岩質プリニー式噴火の推移・マグマ供給系に関する成果を詳細に比較検討により、多量の高密度玄武岩質火砕物を噴出させる特異なプリニー式噴火が発生するために必要な要因を抽出できる可能性が高まった。このように、平成28年度には、本課題完遂のための骨格となるデータと知見が順調に取得できたこともあり、概ね順調に研究が遂行できていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初は平成28年度に予定していたNt-Ogの分布調査を、平成29年度に重点的に行う。平成28年度の研究により、模式露頭におけるNt-Ogの産状、特に、本質物の岩質の時間変化が解明されたため、他地域に産するNt-Ogの同定、Nt-Ogを構成するファールユニットの対比が正確に行えるようになった。既にNt-Ogが産する露頭位置等についての情報収集は終了しており、平成29年度の秋~初冬にかけて集中的にNt-Ogの分布調査を行う予定である。特に、高密度火砕物BBが産し始めるNt-Ogの中位部では、火砕物粒径が逆級化から正級化へと変化しており、この層準付近の産状解析が、高密度火砕物を遠方輸送した噴煙の特性を理解するために重要と考えられる。そのため、この層位に産する異質岩片(花崗岩片)の粒径変化を広域的に調べ、それを噴煙物理モデルで解析することにより、高密度火砕物が噴出を開始した時点での噴煙の高度・噴出率を明らかにする。 火砕物の嵩密度測定についても、平成28年度の予察的分析により、火砕物粒子を防水シールで包むことにより、通常のアルキメデス法によっても高い精度で測定ができることが分かった。平成29年度には、この手法に改善を加え、分析手法の早期確立を目指したい。 マグマ成因の解明のためには、Sr同位体比及びREEのデータも必要であり、前者については北海道大学・中川光弘教授の研究室の表面電離型質量分析計で分析し、後者についてはActlabs社に分析を委託する。これらのデータの収集及び解析は年度内に終了させる。また、平成28年度に分析した微量元素の一部については、測定限界に近い含有量の試料が多かったため、分析条件を変えての追加検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に導入を予定していた3Dレーザースキャナー(Roland社製LPX-600DS)については、本課題採択前に生産が中止されたため、導入することができなかった。代替となる3Dレーザースキャナーの導入についても検討したが、本研究で扱うような黒色多孔質物質の測定が困難な機種が多いため、従来通り、アルキメデス法を用いて嵩密度測定を行うことにした。現在嵩密度測定に用いている電子比重計が老朽化し故障がちのため、電子比重計(アズワン・SD-200L)を平成29年度7月に導入予定である。また、当初、平成28年度に予定していたNt-Ogの分布調査については、平成29年度以降に予定していた研究を前倒しで実施したため、旅費を執行しなかった。平成29年度の物品購入及び調査予定はすでに立っており、当初計上とほぼ同様に研究費を使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、Nt-Ogの分布を栃木県内から茨城県内にかけて広域的に調査するため、当初計上とほぼ同様に旅費を使用する予定である。 物品費は、電子比重計(アズワン・SD-200L)と室内実験のための消耗品の購入に使用する。本課題では最終的に災害予測図の作成を目指しており、研究対象地域の数値地図も購入予定である。また、研究成果を公表論文として学術誌に投稿するにあたり、英文校正費、投稿費あるいはカラー印刷費などの費用として使用する予定である。その他に、噴出物の物質科学的解析を行う調査補助者(本学大学院生)に対する謝金、希土類元素測定の測定費(Actlabs社に分析を委託)などにも、研究費を使用する。
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