本課題では、男体火山で産出する高密度玄武岩質火砕物を主体とする特異なプリニー式噴火の堆積物(男体小川テフラNt-Og)を研究対象とし、噴火に至るまでのマグマプロセスの解明、同様の噴火が今後発生したときの災害予測を目指した。最終年度に得られた研究成果も併せ、本課題の成果を以下で述べる。 (1)Nt-Ogは、デイサイト質軽石(DP:全岩SiO2量61.8~63.7 %)、安山岩~玄武岩質スコリア(AS:51.6~52.7%)、玄武岩質火山弾(BB:46.7~51.7 %)から構成され、DP、AS、BBの順に噴出を開始した。この岩質の変化は、噴火前のマグマ溜りが、デイサイトマグマ層(785~856℃)、安山岩マグマ層(1022~1097℃)、玄武岩マグマ層(1063~1071 ℃)が上下に配置した層状マグマ溜りであったこと反映している。 (2)Nt-Og噴火に関与した各マグマは、SiO2量約52%、H2O量約5%の親マグマ(玄武岩質マグマ)から進化した。親マグマにカンラン石と斜長石が付加することでBBマグマが形成され、親マグマから斑晶鉱物が除去されることでASマグマとDPマグマが形成された。一方、火砕物の87Sr/86Sr比は多様であり、地殻物質の同化も本質物の組成多様性の形成に重要な役割を果たしたと結論される。 (3)噴出物の密度解析のため、粒径8~16mmの火砕物の密度測定法を開発した。この測定法でNt-Ogの火砕物の密度を測定したところ、噴火最終盤には高密度(2.0~2.5g/cm3)の火砕物(主にBB)が大量に噴出したことが明確になった。このような高密度火砕物を噴出した玄武岩質プリニー式噴火の報告例は現時点では他にない。Nt-Ogと同様の噴火が発生した場合、握り拳大の高密度火砕物が到達する火口の風下側10 km内では甚大な人的被害が発生する可能性が高い。
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