研究課題/領域番号 |
16K01317
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木村 修二 神戸大学, 人文学研究科, 特命講師 (10419476)
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研究分担者 |
松下 正和 神戸大学, その他の研究科, 特命准教授 (70379329)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地震災害 / 南海・東南海地震 / 地震津波災害記録 / 地震津波記念碑 / 地域防災 / 現代語訳 / 地域アーカイブズ / 和歌山県・徳島県 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世(宝永・嘉永)に発生した東海・南海地震・津波災害記録の収集・分析、記録の現代語訳化を進め、それを公表することで現代の地域住民による防災・減災活動への意識の涵養、具体的方策の構築に資するよう条件を整えることを目標としている。 本年度は、前年度までに収集した記録の解読・分析をすすめ、上記目的を達する上で重要と考えられるものを精選した上で、それらの現代語訳化を進めた。このうち、和歌山県白浜町に伝わった地震・津波記録に対象を絞り、特に地名と地形など確認のための現地踏査を実施した。その際、白浜町富田区長をはじめとする地区の方々の案内を得た。白浜町では、同町教委の協力のもと、白浜町市編さん関連資料を閲覧することができ、地震関連資料を調査した。津波記念碑調査の分野では、和歌山県域(広川町、新宮市、北山村)や大阪府域(大阪市、堺市)の災害記念碑、高知県内海岸部(須崎市~室戸市)および徳島県海陽町、牟岐町の南海地震津波記念碑や記録の調査を実施した。また明治や昭和および2011年東日本大震災関連の記念碑が濃厚に分布する岩手県三陸海岸(宮古市、釜石市)への遠方調査も実施した。 10月には和歌山県白浜町富田地区において、地域住民を対象とした現地報告会を、同地区役員の協力のもと実施した。さらに12月にも富田小学校で実施された避難訓練に伴い、小中学生も含めたより広範囲の地域住民を対象とする小講演会が開催され、共同研究者の松下が講師となった。和歌山県内では、新宮市や北山村において、和歌山県立博物館などの協力者と連携して2月に開催した地域住民対象の現地学習会での報告も行った。また、徳島県海陽町において、同町立博物館および徳島県立文書館との協議を5月に行い、平成30年6~8月を目途に、サイエンスカフェを参考にした、ヒストリーカフェ形式でのプレゼンテーションの開催することを企図した協議を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度より進めてきた南海地震津波関係記録のデータ収集がかなり進展し、本研究での作業目標である現代語訳化作業も順調に進めてきた。一部の記録については、史料に登場する地名や地形を実地で確認するため現地調査を実施し、地域住民への聞き取りも併せて進めることで現地比定作業を深めることができた(和歌山県白浜町、徳島県海陽町)。 また、当初前年度に計画していた高知県~徳島県への災害記念碑、関連資料調査を実施することができた。さらに東南海・南海地震津波記念碑の防災・減災活動への現地的活用を考察する上で、極めて参考になる東北地方岩手県三陸海岸への現地踏査を実施することができたことで、本研究を進める上で大いに参考になる部分があった。その一方で、本務校の規定により平日の出張調査が困難だったため、休日を選んでの出張調査とならざるをえず、日程や出張先のアポイントメントの面で、選択肢が限られ、本年度に予定していた出張調査を一部断念せざるをえなかった点が(2)の評価とした理由である。 地域住民を対象とするプレゼンテーションも試行的に開催できた(和歌山県白浜町)。地元の方々との協議の中で、サイエンスカフェ形式でのプレゼン活動は困難と判断し、講演形式とせざるをえなかったが、記録が生みだされたその地で開催できたことは重要な成果だった。 ただ研究という点では、諸事情から成果を論文で発表することができなかった点は遺憾とするところだが、共同研究者のものも含め現在数本の論文を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である次年度は、3年間の調査研究のとりまとめをはかることが中心となる年度となる。これまでに収集した近世南海地震・津波記録の解読および現代語訳作業を進め、資料所蔵者など関係者への了解をえた上で最終的に公表するべく鋭意努力する。 一方、文献史料調査にあたって多大なご協力をいただいた地域の方々へ成果の還元をはかることも可能な限り進めるが、当面は次年度前半に開催することを協議していた徳島県海陽町でのサイエンスカフェ形式でのプレゼン活動を具体化してゆく。その際、単なる歴史についての講演にとどめず、地域住民との密な対話を前提とした内容とすることを強く意識し、あくまで地域における防災・減災へ向けた活動へ資するという本研究の目標の基盤を踏まえたものにする。 2011年の東日本大震災以来、南海トラフ震源の巨大地震・津波の発生が予想される地域においても、地震・津波に対する地域住民の意識は、いまだ高いものがあるが、時とともに薄れることが懸念される地震・津波への意識をいかに継続してゆけるかが、当該地域での課題であると感じている。そのため外部から、当該地域の住民が地震・津波への自律的な意識を維持できるように、食傷状態となることをできるだけ避けつつも、不断にさまざまな仕掛けを用意することも重要であると考えている。
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