研究課題/領域番号 |
16K01325
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
平松 晋也 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (70294824)
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研究分担者 |
小野 裕 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (00231241)
福山 泰治郎 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (60462511)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大規模地震 / 開口亀裂 / 地盤劣化 / 崩壊発生限界雨量 / 地震加速度 |
研究実績の概要 |
2016年4月の熊本地震により表層崩壊が多発した濁川流域と山王谷川流域内で不攪乱供試体を採取し,一面せん断試験を実施することにより土質強度を求めるとともに,崩壊斜面周辺部で確認された地震により生じた開口亀裂の分布状況とその規模を把握した。これらの成果を基に,現地流域をモデル化した斜面に対して飽和-不飽和浸透流解析と斜面安定解析を実施することにより,開口亀裂の存在が地震発生後の斜面の安定性に及ぼす影響について考察を加えた。その結果,最大地下水深は亀裂が存在することにより亀裂の下流1m地点で40%程度増加することになり,亀裂の影響はその下流3~5m地点にまで及ぶといった興味深い事実が明らかになった。以上の結果より,地震により斜面上に開口亀裂が発生することでその下流斜面への雨水の供給が促進されるといった注目に値する事実が確認された。また,開口亀裂の存在による地下水深の増加率やその影響範囲は亀裂の発生位置によって異なり,遷急点の上流に亀裂が存在すると亀裂の影響がより大きくなる事実が明らかになった。さらに,飽和-不飽和浸透流解析によって得られた土壌水分状態を用いて斜面安定解析を実施した結果,亀裂の下流1~2mの範囲では最小安全率の出現時刻が1時間以上早くなり,亀裂が存在することで亀裂の下流2m範囲では通常時の2割程度少ない雨量で斜面崩壊の危険性が高まるといった注目すべき事実が明らかになった。 次に,2018年9月に発生した北海道胆振東部地震時に表層崩壊が多発した厚真川流域内より採取した不攪乱供試体に対して加速度(衝撃)試験と一面せん断試験を実施したところ,供試体に2.2Gの加速度を与えると内部摩擦角にはほとんど変化がみられないのに対し,粘着力は5.11kN/㎡から0.97kN/㎡へと80%程度も大きく低下するといった興味深い事実が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主対象である花崗岩に加え2016年4月に大規模地震が発生した熊本地域(火山灰)をも研究対象として調査・解析を進め,順調に研究成果が得られた。阿蘇地域までの移動に当初の予定より多くの時間を要したものの,研究当初に予定していた項目の大部分を遂行することができた。しかしながら,研究成果の取りまとめを行っている途中の2018年9月に北海道胆振東部地震が発生し,山全体が崩壊するといった衝撃的な事実が明らかになった。この地震による崩壊密度は40%以上とわが国ではほとんど経験したことのない規模の荒廃をもたらし,火山地域での崩壊地の分布状況と地震規模との関係を明らかにすべく,北海道厚真町も研究対象地に追加して研究を進めることとなった。その結果,2.2Gの加速度が作用すると,土質強度が最大で80%程度も低下するといった驚くべき事実が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までに明らかになった研究成果に加え,北海道厚真町内より採取した不攪乱供試体に対して衝撃試験と一面せん断試験を追加で実施する。そして,これらの結果を用いて大規模地震発生後の土砂災害警戒避難基準雨量の引き下げ基準の設定手法を確立するとともに,同一規模の地震が発生した場合の崩壊発生限界雨量に及ぼす地質の影響を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新規購入し現地に設置・計測予定であった土質試験機材に関し,信州大学保有の現有機材を使用することが可能となったため。 (使用計画) 研究最終年に北海道胆振東部地震が発生したため,研究対象地として北海道厚真町を追加することとなった。本年4月には現地の消雪が確認されたため,次年度使用額は今後実施予定の厚真町への旅費・交通費に充てる予定である。
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