研究課題/領域番号 |
16K01329
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西山 哲 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (00324658)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 3次元計測 / 河川堤防 / 河川構造物 / レーザ点群 / デジタル画像 / 車両走行計測 / 点検作業の高効率化 / ICT技術 |
研究実績の概要 |
本研究は,地盤から3.8mの高所にレーザスキャナを設置した車両を用いて,特殊堤上面,堤防法面および構造物全体の3次元点群を取得できる走行計測を開発し,その利点を活かした効率的な手法による河川堤防および河川構造物の維持管理を実施する手法を開発するものである.本年度は,あらためてMMSが把握できる変形・沈下量を具体的な数値で評価するとともに,堤防および構造物の変形・沈下を把握する計測手法を,再現性を含めて検討した結果,次の成果を得た. ・基線長が5km以下,PDOP値が3以下になる時間帯に計測することで,MMSの自己位置を高精度に算出することができ,その結果,堤防高の変状を0.1mの精度で,あるいは軟弱地盤地での河川堤防の変形・沈下把握を 0.05mの精度で再現性良く把握できることを明らかにした. ・固定局からの基線長に応じて,キネマティック解析やVRS方式によるGNSS測位を適切に用いることが有効であるが,基線長が概ね12km以下の区間ではキネマティック解析を,それ以上ではVRS方式を用いて解析することで安定した精度のMMS点群が取得できることを確認した. ・堤防の沈下,変形を高精度に計測する前記の手法により,河川構造物である門柱の傾倒点検が,下げ振りなどの従来行われていた手法と同等な精度で検出できるが確認できた. ・次のレーザ点群の解析工程を自動的に行うソフト開発を行なうことで,連続堤防高をリアルタイムに近い迅速な処理を可能にした.まずMMS点群を用いた地形解析を行い,堤防天端の平坦領域を抽出する.次に,その結果と軌跡データを用いて,堤防高の候補となる箇所を抽出する.最後に,縦断方向の連続性に着目した処理を施し,堤防高を抽出する. これらの成果により,将来の技術者不足に対応して,人的労力およびコスト負担を軽減するICT技術による河川維持管理手法を構築するための基礎技術が完成した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
帯状に長い河川堤防に対し,堤防状況や堤防高さらには点在する河川構造物の変状を,車両走行という効率的な手法で把握する計測手法を開発する目標に対して,堤防高の変状を0.1mで把握し,軟弱地盤地での河川堤防あるいは河川構造物の変形や沈下を 0.05mの高精度で把握できることを明らかにした.それだけでなく,本手法を汎用化と再現性を良好にするため計測指針も取りまとめ,本年度の目標である次のような成果を得た. ・河川堤防のMMS計測では,MMS自己位置算出方法,PDOP,および固定局からの基線長に留意をすることにより,帯状に長い河川で0.1m程度の安定した位置精度のMMS点群を取得できる.・河川堤防で一般的に存在する20m程度の道路橋を跨ぐ区間といったGNSS不可視区間でも,位置精度の劣化が少ないことが明らかになった.・MMS自己位置算出方法は, GNSS測位とIMUの慣性測位の結合処理を用いることで,高架などのGNSS不可視区間で安定した位置精度を確保できる.・調整点による位置補正処理を施したMMS点群を用いることで,0.02m以上の堤防あるいは構造物の変形・沈下進行区間を把握できる.・周辺より低い箇所,天端勾配が周辺と異なる箇所,天端中央が法肩に比べて低い逆勾配化区間,沈下進行の恐れのある箇所の変状も漏れなく把握できる.・MMS点群を用いた自動処理を構築した.具体的には,堤防の最も高い位置を認識し,その高さを堤防高として把握する手法を開発した.これにより,計測の自動化と省力化が実現でき,その結果としてリアルタイム計測を可能にした. 以上,研究期間内の目標をほぼ2年目で得ることができ,「おおむね順調に進展している」と評価できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,車両にGNSS受信機,慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit),オドメータ,およびレーザスキャナなどの計測機器を搭載し,自己位置と姿勢を測定しながら車両周辺の三次元形状を面的に計測できる車両走行技術(MMS:Mobile Mapping System)を確立するものである.MMSは点検作業の高効率および低コスト化が可能であると期待されてきたが,計測を実施する際の自己位置はRTK-GNSS解析等により決定されており,一般にRTK-GNSS解析は,固定局からの基線長が長くなるにつれ,GNSS電波の電離層遅延などの影響により精度が劣化することが知られていた.そのためMMSの自己位置測定精度にも基線長が影響を及ぼすため高精度化が困難であると考えられ,広域を安定して高精度計測することが必要な対象,特に河川の点検作業には適用されない状況であった.本研究は,この課題の解決に取り組み,2年の研究期間内に河川堤防および河川構造物の変状を高精度に把握する車両走行技術を完成させることができ,その成果を基にして,平成30年度は,この技術を実際の河川維持管理作業に活用可能であることを示す年度となる.既に計測の要素開発は完了しているので,今後の推進方策は実用化を実現させることになる.具体的には,前年度までに開発したレーザ照射技術と画像データ処理などのソフト技術を融合させ計測手法を現場の実験を通して完成させることを計画する.現場実験では,堤防天端沈下,堤防法面の変位を面的に捉え,また平常時と洪水時の外水位の変動に伴う堤内地側法面の漏水の影響の把握,さらには河川構造物の微細な変状の検知の定量的な精度検証を行うことで,本研究で開発した技術の改良に取り組むとともに,本手法の有用性をいくつかの現場にて実証して実用化させることを狙う.
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