研究実績の概要 |
本研究は腱炎発症および進行の機序のなかでも,細胞張力や細胞膜流動性などの細胞の力学的な特性が炎症性サイトカイン刺激に対する応答に及ぼす影響に着目し,細胞の炎症反応が進行する機序を検討するものである. 最終年度は剛性を変えたPDMS製マイクロピラーデバイス上で症性サイトカインIL-1beta刺激(0, 1, 10, 100 pM)を3日間与えたウサギアキレス腱由来腱細胞ついて,蛍光in situ hybridisation法を用いてコラーゲン分解酵素MMP-1の遺伝子発現を調べる実験を行った.結果から,同一の濃度では基板剛性が低い基質の腱細胞ほどMMP-1発現細胞割合およびMMP-1発現量が高いことがわかり,特に10 pM, 100 pMにおいて高剛性基板と低剛性基板の間に統計的有意差が認められた.また,FRAP実験では低剛性基板上の細胞の膜脂質の流動性は高剛性基板上の細胞より有意に低いことが示された.細胞膜脂質とアクチン細胞骨格を繋げるタンパク質であるエズリンの発現は低剛性基板上の腱細胞での発現密度が有意に高いことがわかった.このことから,次のメカニズムが考えられる.低剛性基板に播種された腱細胞は細胞張力が低下するとともに細胞面積も小さくなる.細胞膜では細胞膜を構成する脂質分子やサイトカイン受容体などの膜タンパク質の空間密度が上昇し,膜構成要素の流動性が低下する.これによって受容体同士が近接してクラスターを形成し,同じ濃度のIL-1beta刺激に対しての応答性が上昇する.基板剛性に由来する細胞張力の低下は,過負荷による腱組織内での局所的な破断に伴って腱細胞から力学刺激が失われた状態に近いと考えられることから,本研究で示唆された機序は過負荷が作用した腱組織において組織分解・変性が発症・進行するメカニズムを示唆するものと考えられる(成果の一部は現在論文投稿中).
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