研究課題/領域番号 |
16K01352
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
宇野 和行 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (20550768)
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研究分担者 |
河阪 明彦 山梨大学, 総合研究部, 助教 (30710313)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | CO2レーザー / 歯科 / 新生骨 |
研究実績の概要 |
ウサギの鼻骨に短パルスCO2レーザーを照射する実験を行い,骨の治癒過程におけるCO2レーザー照射による新生骨形成への影響を調査した. CO2レーザーの開発・調整として,動物実験を動物舎で行うために,真空ポンプやガスボンベを用いないガス封じ切り型でテーブルトップサイズの短パルスCO2レーザーを開発した.本CO2レーザーは,尖頭パルス幅272 ns,テール長51 μs,尖頭パルスに対するテールのエネルギー比1:36のテール付き短パルスを出力した.レーザービームは,多関節ミラーによる導光パイプを通り,骨の表面に照射された.フルエンスは照射面積により調整され1パルスあたり52.5 mJ/cm2であり,照射回数(繰り返し周波数50 Hz)により総照射フルエンスが88-662 J/cm2に調整された. 動物実験では,日本白色種家兎(雄,12-16週齢,2.5-2.99 kg)を用いた.ウサギの鼻背部の剃毛と鼻骨上粘膜の剥離を行い,骨に直接レーザーを照射した.同一条件のウサギを4匹で1群とし,施術後1,2,3,4週後に屠殺し,継続的な評価を行った.組織形態学的評価法において,画像解析ソフトを用い,照射部の面積及びその中の骨組織の面積を計算し,後者の占有率を算出した.占有率は10-20%であり,短パルスCO2レーザー照射による新生骨の形成が認められた. また,短パルスCO2レーザーによる人の歯(抜歯歯牙)への影響の調査を行った.レーザーパルス波形は,尖頭パルス幅337 ns,テール長180 μs,尖頭パルスエネルギーに対するテールエネルギーの比1:20に調整された.本調査では,これまでに報告されている半値幅100 μsの長パルスCO2レーザーによる人の歯の切削よりも低いフルエンスで炭化なく切削可能(エナメル質で切削効率8.6倍,象牙質で切削効率41.2倍)であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画において,平成28年度はハムスターを用いた動物実験を計画していた.平成28年4月・5月に,分担者と本研究が開始される前の実験結果(ハムスターを用いた動物実験)を用いて議論を行った.ハムスターで多くの実験条件を調査するよりも,大きな動物を用い,本方法の効果を確認することが先であり重要であるという結論に至った.そのため,当初の計画を早め,平成28年度にウサギを用いた動物実験を行った.この結果,ウサギにおいても,短パルスCO2レーザー照射による新生骨の形成が認められた.また,照射部に,炭化などの熱影響は認められず,短パルスの効果が現れているものと考えられた. CO2レーザーの開発・調整では,動物実験を動物舎で行うために,真空ポンプやガスボンベを用いないガス封じ切り型でテーブルトップサイズの短パルスCO2レーザーを開発した.当初の計画では,1台の装置により,パルス幅100 nsのテールフリー短パルスと尖頭パルス幅100 ns,テール長40 μs,尖頭パルスとパルステールのエネルギー比が1:10のテール付き短パルス,尖頭パルス幅100 ns,テール長40 μs,尖頭パルスとパルステールのエネルギー比が1:60のテール付き短パルスの3種類の出力を目標としていた.しかし,動物実験における装置の取り扱いを優先し,ガス封じ切り型の短パルスCO2レーザーの開発に集中したために,前述のようにレーザーパルス波形をダイナミックに変形することができなかった.真空ポンプやガスボンベを必要とするガスフロー型では,レーザーパルス波形のダイナミックかつ微細な変形を実現しているため,ガス封じ切り型の短パルスCO2レーザーのレーザーパルスの制御が今後の研究課題である. また,当初平成29年度に計画していた短パルスCO2レーザーによる人の歯(抜歯歯牙)への影響(切削や炭化)の調査を平成28年度に行った.
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今後の研究の推進方策 |
ウサギを用いた動物実験では,まず,平成28年度に実施できなかった免疫組織化学的評価を加え,平成28年度に行った動物実験の結果を,さらに詳細に取得する.次に,平成28年度の実験と同じレーザーパルス波形,尖頭パルス幅272 ns,テール長51 μs,尖頭パルスに対するテールのエネルギー比1:36のテール付き短パルスを用いて,1パルスあたりのフルエンス(照射強度,単位面積あたりの照射エネルギー)や総照射フルエンス,繰り返し周波数に依存する実験を行い,新生骨の形成の条件について検討する.その後,平成30年度に,平成29年度の結果(フルエンスや繰り返し周波数の照射条件)を用い,レーザーパルス波形が大きく異なる3つのレーザーパルスによる動物実験を行い,新生骨の形成の条件について検討し,本研究を総括する. CO2レーザーの開発・調整では,手術室で扱いやすい装置(真空ポンプやガスボンベを用いないガス封じ切り型のテーブルトップサイズの装置)におけるレーザーパルス波形の制御を行う.また,最近の我々の研究成果では,本CO2レーザーの方式において,レーザービームの制御(ガウシアン型やトップハット型,ドーナツ型,さらにM2の制御)が可能となっているため,照射部のレーザービームの形状・面積を考慮したCO2レーザー装置の開発を行い,上述の動物実験に反映する. CO2レーザーによる硬組織の実験では,人の歯(抜歯歯牙)を用い,レーザーパルス波形やフルエンスに依存する実験を行う予定である.新生骨の形成では,照射部の骨に切削や炭化を与えない条件における効果的な新生骨の形成が重要である.本実験では,骨に切削や炭化を与えない条件の調査も一つの目的である.また,平成28年度の成果を受けて,人の歯をさらに低フルエンスで効果的に切削可能な条件の調査も目的である.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品が予定より少額で購入でき節約できたため,4,752円の未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の4,752円の未使用額は,平成29年度の物品費において実験を円滑に進めるために必要な消耗品の購入に充てる.
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