研究課題/領域番号 |
16K01357
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
福見 稔 徳島大学, 大学院理工学研究部, 教授 (80199265)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 深層学習 / 筋肉電位 / ニューラルネットワーク / ジャンケン認識 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,手首で計測されたEMG(筋肉電位)を対象に深層学習ニューラルネットワークを用いて学習を行い,ジャンケン認識とジャンケン動作による個人認証を高精度に行えるか否かの検証を行った. ジャンケン認識では,ニュートラル動作(何もしない状態)を含めて4動作の識別を行った.EMG信号は7名の被験者から計測し,学習には6名の被験者データを用いて行い,認識は学習に使用していない被験者データを対象として評価した.従来の研究では,学習に用いない被験者データに対しては精度がかなり悪化しており,これが従来研究の問題点として長い間の課題であった.本研究では,データの正規化と学習データの人工的増加法を工夫し,さらに深層学習ネットの構造を工夫することにより,深層学習により従来の認識精度を大幅に上回る認識精度92.2%(平均値)を達成できた.特に,10層の深層学習ネットで学習を行い,学習後に出力層をサポートベクターマシンに置き換えることにより高精度を達成している.この成果は,深層学習により大量のデータを学習することで個人性特徴のバラツキを吸収できたことで達成できたと考えられる. 次に,手首EMGを用いた個人認証では,ジャンケン動作の"パー"動作を対象として学習と評価を行った.8名の手首EMGデータを計測し,7層の深層学習ネットを用いてクロスバリデーション評価を行った.その結果,2クラス分類(1対多個人認証)で約95%,8クラス分類で約70%の精度を得た.比較のために,3層ニューラルネットでも学習評価を行ったが,2クラス分類で6%,8クラス分類では約29%,精度が低下した.以上より,深層学習により,手首EMGの個人認証でも比較的に高精度を達成できた. これらの成果は,2016年11月に開催されたICAT国際会議(ローマ開催)で英語発表している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,手首で計測されたEMG(筋肉電位)を対象に深層学習ニューラルネットワークを用いて学習を行い,ジャンケン認識とジャンケン動作による個人認証を高精度に行えるか否かの検証を行った.その結果,深層学習を活用することにより手首EMGに含まれる個人性を解消させてジャンケン認識を対象としたクラス分類が高精度に行えることを確認した.この場合,学習に用いていない被験者のEMGデータに対しても高精度の認識が行えることが判明した点は格段に大きな進展である.また,個人性に特化した個人認証でも,深層学習を用いることで高精度に行えることを確認できた.このように,従来は困難とされていた学習に用いていない被験者データを高精度に学習でき,かつ個人性に特化した個人認証も高精度に行えることが判明した. 現在は,手首EMGによりジャンケン動作の認識と個人認証を同時に学習させることを検討している.また,その後に,深層学習ネットから,ルール表現を抽出するためには,どのようなネットワーク構造が妥当か,どのようなルール表現が抽出可能であるのか,などを検討する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,手首で計測されたEMG(筋肉電位)を対象に深層学習ニューラルネットワークを用いて学習を行い,ジャンケン認識とジャンケン動作による個人認証を高精度に行えることを確認し,国際会議で発表した. 今後は,深層学習ネットにより,ジャンケン動作のクラス分類と個人認証を同時に行うことを目指す.この場合,入力層から中間層付近までは共通に使用し,中間層付近から出力層までは二つに分かれる構造とする.したがって,出力層では別の情報を扱う構造となる.二つのタスクを同時に学習可能か否かを検討し,その後,ルール表現に適した深層学習のネットワーク構造の検討と深層学習ネットに適したルール表現方法の検討を行う.例えば,入力層の特徴表現と出力層の各ユニットの関係について,中間層付近を考慮せずに表現可能か否かも含めて検討する.また,その際に,入力信号形態の調査・検討を行う.この場合,使用する入力信号として,EMGの時系列信号,周波数スペクトル,それらの統計的学習による次元圧縮した信号など,様々な形態を考慮して検討する.また,深層学習ネットの構造に関して,ルール表現に適した構造を獲得できるように,忘却を用いた構造学習と遺伝的アルゴリズム等による構造設計法の適用を検討する.さらに,入力信号の正規化法と学習サンプル数増加法がクラス分類と個人認証の精度に与える影響も調査する. これらの膨大な計算の際に,昨年度に科研費で購入した高性能GPUを活用し,また研究支援を学生に依頼する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に,研究成果を国際会議で早急に発表する必要があると判断し,その旅費の不足分を前倒し請求した.次年度使用額は,主にその旅費の使用残額になります.また,深層学習のフレームワークである,Google製TensorFlowを活用することにより,深層学習を効率的に実装できることが判った.そのため,研究協力謝金の使用額が減ったことも次年度使用額が生じた理由である.
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究に関連する深層学習の分野は日進月歩であり,最新の成果もすぐに陳腐化するような分野である.したがって,研究成果を得た場合には早急に海外に向け英語発表しておく必要がある.次年度使用額は,国内または海外で開催される国際会議での発表旅費の一部,また研究に必要な消耗品購入の追加費用として利用したいと考えている.
|