研究課題/領域番号 |
16K01359
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
関根 一光 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 講師 (50447182)
|
研究分担者 |
浜田 賢一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 教授 (00301317)
内藤 禎人 徳島大学, 病院, 助教 (20509773)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 生体適合性 / 生体材料 / 人工臓器 / 足場材料 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては,チタン微粒子の焼結体からなるチタン多孔体について,一部を多孔質,残りを無孔質となるようバルク材と多孔質体を焼結して一体化した試料の作成を試み,その成形法に成功した。以下,無孔質なチタンバルク材を“バルク体”,全面多孔体からなる試料を“オープン構造体”,多孔体とバルク体の焼結体を“セミオープン構造体”と通称する。 各試料群はまず直径5 mm,厚み2 mmを基準としてバルク体はチタン棒材をダイヤモンドソー切断により作成し,オープン構造体は従来法(チタン微粒粉とワックスの加熱ペースト)により成形した。セミオープン構造体はバルク体を厚み1 mm,加熱ペーストを厚み1 mmとし,最終寸法が厚み2 mmになるよう成形した。オープン構造体およびセミオープン構造体は真空調整後のArガス雰囲気下で,1,100 ℃で2時間係留の条件で焼結した。また,試料の一部は前年度までの成果であるウレタン化表面処理をおこない,それぞれの細胞賦活化試料を併せて作成した。 これらの試料を6週齢雄性ラットの背部筋層に,筋層剥離によってポケットを作成し,EOG滅菌処理済みの各試料を埋入した。各試料は筋層には固定せず,生体体動環境下での組織癒合性を評価した。埋入1週後に麻酔下ラットを腹臥位に固定した状態で試料を埋入した背部筋層を開層し,背部から垂直方向への引き抜き試験をおこなった。 結果,未処理試料での癒合性強度の平均値(n=10)はバルク材,セミオープン構造体,オープン構造体ではそれぞれ,(癒合せず),52 kPa,61 kPaであった。また細胞賦活効果試料においてはそれぞれで2 kPa,87 kPa,89 kPaであった。セミオープン構造体とすることで,組織液やガス代謝能が低減した結果,結合組織由来の癒合能も下がるが,細胞賦活化処理によりその癒合能を向上させていると推察される結果となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度では,最終的なカニューレ構造とする際に前提としている,無孔なバルク材表面に多孔体を作成することにより,接触する組織の癒合性や誘導したい周囲組織の構造内への浸潤性が低減するであろうという推測があった。理由は上記でも述べた組織液やガス代謝能が無孔部位により遮蔽・制限されるためである。これらを補うことを目的に,昨年度までに細胞賦活化処理についての検討とスタンダードプロトコルの作成を試みていたが,それらを併せて反映する試料の作成と評価をおこなった。 その結果,昨年までの成果を裏付ける結果となり,多孔体化による表面積の拡大と細胞賦活化表面処理をおこなった試料は細胞癒合性を向上させる試料として有効であることを示唆するものであった。現在のところ,コストや実験効率の点で目的としていた対象組織と特定の誘導因子についての評価までは進んでいないが,まずは基礎試料として現在用いているtypeIコラーゲンで,本課題での成果の対象を軟組織だけでなく硬組織への応用も視野に入れつつ検討することで,将来的な段階で特定因子による評価をおこなう,とするほうが研究全体をpromoteする上で重要であると考えている。 なお,これまでの成果を第39回日本バイオマテリアル学会において口頭発表をおこなったが,本会においてのハイライト口演に選出頂いたことを報告しておく。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,対象とする生体組織に特異な因子による細胞賦活効果賦与を検討する。例えば血管内留置デバイスを目的とした際には血管内皮に有効性を見いだせるタンパク製剤などであるが,「現在までの進歩状況」においても述べた通り,対象とする生体組織をあまり狭めず,血管内,皮膚ボタンなどの軟組織から骨性インプラントデバイスなどの硬組織等,広い応用を視野に入れて検討を進めたい。 また,平成29年度の成果を基に,大型な円筒形試料作成について試料型など準備を進めており,平成30年度内に当初の目的である血管内留置型に適した試料作成と,多孔質性状および細胞賦活効果の有効性の評価を,実験動物を用いておこなう。 その一方,平成29年度において細菌付着性についての検討も開始した。細胞賦活効果処理はその特性上,細菌にとっても増殖に有意な環境になりかねない。黄色ブドウ球菌を用いた細菌増殖性試験をトライアル的におこなったところ,細菌にとってもリッチな足場となることがわかり,無菌的な手術を想定しても,患者様の容体次第では細菌の温床となり得る可能性もある。 これについて,例えば基材チタンのUV処理など,抗菌性処理した場合に細菌増殖性へ与える影響などの検討課題も併せておこなっていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験動物を用いた実験について,動物種を変更して例数を増やすことにしたため,実験動物購入コストを削減することができた。
次年度以降に多くおこなう予定である動物実験の費用として繰り越すことにした。
|