前年度に新しい電源装置を用いてナノ秒高電圧パルスを細胞に作用させるための実験セットアップを組んだが、その評価を継続して行った。またヒト由来培養細胞を低吸着プレート中で培養することで腫瘍を模した構造体であるスフェロイドを形成させ、これを用いてナノ秒高電圧パルスによる癌治療のモデル実験を行い、ナノ秒高電圧パルスによるスフェロイドの崩壊と細胞の生存率低下を観察した。さらにナノ秒高電圧パルスが示す細胞毒性の詳細について研究を深めた。オートファジーは細胞成分を分解して再利用するためのメカニズムであり、飢餓などのストレス状態によって活性化される。またオートファジーは細胞死の一様式でもある。これまでにナノ秒高電圧パルスがオートファジーを活性化することが報告されていたが、ナノ秒高電圧パルスによるオートファジー活性化が細胞死として生じているのか、それともナノ秒高電圧パルスに対する防御的な反応であるかは不明であった。そこでオートファジーのキーとなる遺伝子を欠損したノックアウトマウス細胞と、対照となる正常細胞を入手し、これらの細胞のナノ秒高電圧パルスに対する感受性を解析した。その結果、オートファジー欠損によって細胞のナノ秒高電圧パルスへの感受性が高まることを見いだした。このことはオートファジーがナノ秒高電圧パルスの示す細胞毒性に対して防御的に作用することを示しており、これを抑制・活性化することでナノ秒高電圧パルスの効果を増強・低減することができる可能性が考えられた。ナノ秒高電圧パルスによるオートファジー活性化の分子機構と生理的意義の詳細についてより詳細な研究を継続している。
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