研究課題/領域番号 |
16K01365
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松井 岳巳 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (50404934)
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研究分担者 |
孫 光鎬 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (80756677)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体医工学 / 感染症 |
研究実績の概要 |
本研究は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村における使用を想定した,立位でも座位でも測定可能とする完全非接触の感染症・熱中症スクリーニングシステムの開発を目的としている. 今年度はこれまでに開発したシステムを改良し移動性を持たせ,計測部を頸動脈に当てて呼吸,体温,心拍を測定するシステムを設計した.計測部には呼吸測定用の24GHzの小型ドップラーレーダー,体温測定用の放射温度計,心拍測定のための光電脈波センサーを埋め込み,ニューラルネットワークや非線形判別法を用いた熱中症や感染症の判別アルゴリズムを検討し,設計段階においてユーザビィリティーの高いシステムを開発するための問題点を抽出した.いかなる人でも公平に使え,使い方が単純・自明,必要な情報がすぐに認知でき,使用者への負担を必要としないデザインとするべくプロダクトデザインと試作を行った. また男子大学生を対象にバイスクルエルゴメーターによる運動負荷後の深部体温を,試作したシステムを用いて推定し,深部体温計を用いた実測値と比較した.相関係数=0.8の相関が認められた.病院においては感染症・熱中症に関わらない身体の異変を捉える実地運用を行った.その結果,80歳以上の高齢者10名を対象に,看護師が計測部を軽く頸動脈付近に当てることにより,心拍信号と呼吸信号捉えられることが確認できた.発汗などの体温を調節する機能が低下し,暑さ,寒さに対する感覚が鈍くなる高齢者にとっては,簡易な方法で身体の異変を捉える事が可能となった. また本年度はクラウドを利用したシステムの構築をした.共同研究する病院でのデータをリアルタイムで分析拠点となる大学研究室内で受信するものである.本システムが本格的に稼働すれば,感染症の流行の発生をいち早く把握できるほか,入院患者を長期モニタリングすることで,重症化へ至る前兆などを把握する事が可能となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのシステムを改良し移動性を持たせ,計測部を頸動脈に当てて呼吸,体温,心拍を測定するシステムを設計した.学生を対象としたバイスクルエルゴメーターによる運動負荷後の深部体温推定と深部体温計を用いた実測値との比較をし,相関係数=0.8の相関が認められた. 本来の目的は完全非接触システムであり,二次感染防止のため,初年度に開発したシステムを完全非接触とする必要性がある.また初年度に構築したクラウドシステムにて得られるデータについても,より良い利用方法を模索していかなければならない.感染症スクリーニングシステムは発症に伴う炎症反応を呼吸数,心拍数,体表温度などから感染症発症の有無を10秒程度で推定するシステムである.システムはシンプルだが,スクリーニング対象となる患者,多岐にわたる感染症,さらに誤判別の社会的影響等の要素により,その判定アルゴリズムは極めて重要である.研究中のニューラルネットワークとk-means法やfussy法を併用した判定アルゴリアズムは以下の点で極めて独創的でかつ有益である.その特徴は,A) 患者が一人増えるたびに,システム自体が最適なスクリーニング条件を更新する.B) 臨床応用に重要な,High risk群の高精度な抽出が可能である. しかし最適な判定アルゴリズムは未だ定まっておらず,以下のような研究の余地を多く残している. ①症例数が増えると計算量が膨大となり,リアルタイムの処理を行えなくなる.また測定対象者が動くと,スクリーニング精度が極端に低下するなどの限界を有する. ②現状ではニューラルネットワークは各患者,各健常者間の症状の類似性(Distance)のみで,High risk患者,患者,健常者に分類している.SIRSの診断基準や,各種感染症患者の一般的, 呼吸数,心拍数,体温などの情報も用いておらず,実用化に当たっては改良の余地が多くある.
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今後の研究の推進方策 |
現在開発している感染症・熱中症スクリーニングシステムは可搬性に優れ,2020年オリンピック・パラリンピックにおける使用が期待される.一般的に熱中症は,深部体温や血ガス分析で求めた血中の電解質濃度を用い診断される.他に放射温度計を用いて前額の温度上昇から簡易診断をする試みもあるが,前額の温度は深部体温を反映しない.(Casa DJ et al, Validity of devices that assess body temperature during outdoor exercise in the heat. J Athl Train. 2007 Jul-Sep;42(3):333-42.)また初期段階では深部体温の上昇もわずかで,発汗による皮膚表面温度の低下もあることから,サーモグラフィーによる早期診断は困難である.そこで熱中症の症状が感染症と類似している点,つまり,初期段階においても呼吸数や心拍数が上昇することを利用し,提案システムを用いて熱中症に特化した判定アルゴリズムを開発する. 平成28年度に開発したシステムには線形判別法を採用した.しかしながら,更なる精度向上のためには,ニューラルネットワークや非線形判別法を用いた熱中症や感染症の判別アルゴリズムを検討しなければならない.現在までに線形判別法によるインフルエンザ患者のスクリーニング結果で,感度(Sensitivity)89.5%という結果を得られており,ニューラルネットワークの導入により,さらなく感度や検疫上重要な陰性的中率(NPV)の向上が期待される.臨床においては健常者と感染症患者を判別するだけでなく,重症化する可能性がある患者を効率的に判別し,重症化を未然に防ぐ必要があるため,ニューラルネットワークと非線形判別法を併用した重症化する可能性のある症例,軽症例と健常者を判別するアルゴリズムを確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にシステム製作を予定していたが,デザインを学生に取り組ませ,筐体製作が安価に済んだため,残高が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に製作したシステムを用いた実地検証の結果,様々な問題点が明らかとなった.次年度には,更にユーザビィリティーの高いシステムを開発し,いかなる人でも公平に使え,使い方が単純・自明,必要な情報がすぐに認知でき,使用者への負担を必要としないデザインとする.
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