虚血性心筋症の治療において、心筋バイアビリティ(虚血/梗塞に陥った心筋の回復能)の正確な評価は重要である。本研究課題では、ラマン分光法を用いたin vivoに応用可能な心筋バイアビリティ解析法開発に関する基礎研究を行った。ラマン散乱光は、光が分子に入射した際に散乱する、分子固有の振動数を反映する光であり、生体組織を解析できる可能性がある。本課題において、虚血心に特徴的なラマンスペクトル変化と虚血を反映する分子を探索した。 ランゲンドルフ灌流ラット虚血心モデルを作製し、心外膜下心筋のラマンスペクトルを測定した。750/1450 cm-1のラマンピーク強度比は虚血負荷後直ちに増加した。750 cm-1および1450 cm-1のラマンピークは、それぞれ還元型シトクロム分子およびCH変角振動に帰属されたが、750/1450 cm-1のラマンピーク強度比を計測することで心筋虚血の早期検出が可能と考えられた。また、長時間虚血負荷すると虚血解除後もそのピーク強度比は虚血負荷前までには低下せず、これはミトコンドリア内膜の呼吸鎖複合体機能の不可逆的障害を示唆する所見と考えられた。また、ラット陳旧性心筋梗塞巣をin vivoでラマン散乱光を用いて観察すると、梗塞巣と非梗塞巣ではラマンスペクトルが異なっていた。ただし、in vivoで心組織のラマン散乱分光を行う場合、血液ヘモグロビンのラマン光の強度が強く、比較的強度の弱い心筋細胞ラマン光に影響を及ぼし、多彩な病変を正確に鑑別するには更なる研究開発が必要と考えられた。 超急性期~慢性期のラット虚血心においてそのラマンスペクトルは変化し、ラマン分光法によりin vivoで心筋バイアビリティを鑑別できる可能性がある。
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