食塩感受性高血圧症とは、食塩過剰摂取により惹起される本態性高血圧症である。この病態に神経系(中枢・末梢)、心血管系および腎臓等の臓器が複合的に関わっていることが知られている。最近、リンパ循環系もこの食塩感受性高血圧症の病態に重要な役割を果たすことが報告された。我々は、モデル動物(ラット・マウス)を用いて、その集合リンパ管収縮機能が高食塩負荷によって変化する事を世界に先駆けて発見した。さらに、リンパ管のクロライドチャネルを介する筋原性収縮が変調することを当該研究の過程で見出した。本年度計画に沿って得られた結果と新発見は、以下である。1)正常食塩食(NSD)ならびに高食塩食(HSD)負荷マウスの集合リンパ管に対するクロライドトランスポーターの影響を検討した。その結果、HSDは、Na+/K+/2Cl-トランスポーター(NKCC)阻害薬であるフロセミドによるリンパ管収縮抑制を増強した。一方、Na+/Cl-トランスポーター(NCC)阻害薬であるサイアザイドは、両群のリンパ管収縮に影響を与えなかった。これらの結果から、HSDはマウス集合リンパ管のNKCCを介する筋原性収縮に影響を与えることが示唆された。2)マウス集合リンパ管における内因性プロスタノイド産生機構について検討を行った。その結果、マウス集合リンパ管に対して、アラキドン酸は3層性の反応(低濃度では拡張のみ、中濃度では拡張に引き続く収縮、高濃度では律動的攣縮)を惹起することが判明した。HSDは、アラキドン酸誘発性収縮を増強することを発見した。さらに、このアラキドン酸による拡張-収縮反応は、選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)2阻害薬であるNS398によって解除された。これらの結果から、HSDはマウス集合リンパ管のアラキドン酸-COX2-内因性プロスタノイドを介する収縮機構(筋原性・自発性)に影響を与えることが示唆された。
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