研究課題/領域番号 |
16K01377
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
植野 彰規 東京電機大学, 工学部, 教授 (20318158)
|
研究分担者 |
岩瀬 敏 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90184879)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | グラフェン被覆Laplacian型電極 / 非反転型ブートストラップ回路 / SNR向上 |
研究実績の概要 |
当初の計画の①~③について研究を実施し、下記の実績を得た。 ③グラフェン製 Laplacian 型電極の製作:H28年度は 1cm角のグラフェン試料をウェットプロセスにより別試料に転写する技術を獲得した。H29年度は別試料に転写したグラフェンに、更にマスク処理を施し、酸素プラズマエッチングによりLaplacian型の電極形状(ディスクの外側に同心円のリングが存在)にパターニングする技術を獲得した。また、Laplacian型に事前加工したAu製電極/Cu製電極に前述の技術を適用し、グラフェン被覆したLaplacian型電極を製作することに成功した。グラフェン被覆Laplacian電極を用いて被験者7名を対象に筋電図を計測した結果、被覆前の電極と比べて有意に信号雑音比が増加することを確認した。 ②超低入力容量アンプIC を用いた新能動電極の設計と製作:入力容量をキャンセル可能な非反転入力型バッファ回路(高域フィルタ機能付き)に注目し、計測装置に導入できるよう差動入出力型の回路に変形した。当該回路をLaplacian型電極の裏面に実装し、筋電図計測において従来回路使用時と比較した。結果、入力容量非キャンセル時の方が安定度の高いが、フィルタ導入と差動型への変更により信号雑音比の向上が認められた。 ①従来電極と微小針電極法(MNG)による筋交感神経活動(MSNA)の同時計測実験と解析:神経走行の同定と電極装着について安定した実験手技を獲得するため、MNGを同時計測しない予備実験を繰り返し、1名の被験者でMSNAに類似した活動を得た。結果を踏まえ愛知医科大にてMNGとの同時計測を試みたが、従来型Laplacian電極でのMSNAの非侵襲検出には至らなかった。グラフェン被覆Laplacian電極(裏面は従来回路)でも同様の結果であったため、電極間隔や裏面回路を変更する必要性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自律神経電気活動の非侵襲計測に向け、本研究では当初計画に沿って3つのアプローチを同時併行で進めている。H29年度は電極材の改良を基軸とするアプローチ③において、当初目標を前倒しで達成する成果が得られた。特殊形状のLaplacian型金属(AuまたはCu)電極にグラフェンを被覆する技術を確立したこと、また、金属電極へのグラフェンの被覆により筋電図計測において信号雑音比(S/N)に有意な向上(7名中6名、p<0.01)を確認したことが、これに該当する。なお、本成果の一部をH29年7月に国際学会(APBME 2017、シドニー)にて発表することを計画し、アブストラクト査読の結果より採録が決定していたが、当該国際学会が急遽中止になったためH30年度に発表する予定である。 雑音量低減の信号処理を基軸とするアプローチ①については、H28年度に前倒しで成果が得られたため、年度末に学術論文を投稿した。しかし、論文の一部に不備があり、不採択となった論文の修正と補強に時間を要している。その結果、当初計画のスケジュールと同程度の進捗となっている。 計測用初段回路(電極の裏面)の改良を基軸とするアプローチ②については、H28年度に後段計測回路に故障が発生し修復に時間を要したため遅れていたが、H29年度では回路構成の変更についての検討を行え、遅れを少し挽回した。また、フィルタ機能付き差動型非反転入力バッファの導入により同相除去比の向上(S/Nの向上)に目途がたった点は成果の一つである。前述回路に容量キャンセル機能を付加し、筋電図計測において機能の有無の影響を評価した結果、容量キャンセルを行った方が不安定な計測結果となった。キャンセルの容量値について適正化の必要性が判明した。 上記の3つのアプローチの進捗状況を総合的に考え、おおむね順調に進展しているとの判断に至った。
|
今後の研究の推進方策 |
<H29年度> ③電極材の改良を基軸とするアプローチ:グラフェン被覆Laplacian電極について、<転写技術>+<パターニング技術>+<筋電図S/N改善>までの成果をまとめ、短報あるいは国際会議論文として発表する。 ②計測初段回路(能動電極用回路)の改良を基軸とするアプローチ:フィルタ機能付・差動式・非反転入力形バッファ回路を導入する。Laplacian電極の間隔を変更した計測系にて予備実験を繰り返し、MSNAの非侵襲計測の再現性が向上するかを実験的に検証する。再現性が向上した場合には、愛知医科大学にてMNGとの同時計測実験を実施し、非侵襲計測波形がMNGと同時発火するかどうか検証する。変更した計測系での再現性が向上しなかった場合は、電極能動回路にブートストラッピング技術を導入し、入力インピーダンスの向上を図る。また、電極材にグラフェンを被覆し、予備実験にて再現性の向上を検証する。 ①雑音量低減の信号処理を基軸とするアプローチ:補強・修正中の学術論文を再投稿し、採択を目指す。データ補強等に時間を要するとの判断に至った場合は、フルページ査読付きの国際会議論文としての発表に切り替える。 ●統合アプローチ:<グラフェン被覆>+<電極間隔の変更>+<電極実装回路の変更>+<雑音低減信号処理の導入>を組み合わせ、自律神経電気活動の非侵襲計測の再現性向上について実験的に検証する。自律神経電気活動での検証において再現性の向上が認められなかった場合には、より太い神経である感覚神経や運動神経を対象に実験を行う。また、神経走行の同定に大学ブランディング事業にて購入した超音波診断装置を使用し、電極位置の設置精度を高める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学内出金〆切の2月末の段階で残額が75円となったが、転写・パターニング用のグラフェン試料の購入や、新規回路の製作に必要なICの購入には不足するため、H30年度予算と合わせて、必要な部材の購入に充てるのが適当であると判断した。 新年度になりH30年度予算の使用ができるようになったら、回路部品の購入に充てる予定である。
|