研究課題
我々はマウスMLKLのアミノ酸配列をもとにネクロプトーシスを検出可能なFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)プローブを独自に開発している。本年度、このFRETプローブを用いて以下の研究成果を得ている。1) マウス皮下線維芽細胞由来L929細胞にFRETプローブを導入し、ネクロプトーシスを誘導後にFRET解析した結果、細胞膜の傷害に先行して細胞死を検出することができた。アポトーシスの実行や単純なネクローシスはFRET解析によって検出されなかったため、プローブがネクロプトーシスに特異的であることが明らかとなった。ヒト結腸癌由来腸上皮細胞株HT29細胞ではネクロプトーシスが検出できず、ヒトのMLKL由来の配列を持つFRETプローブが解析に有用であることから、プローブには種特異性があることが確認された。2) 作製したFRETプローブのうちマウスMLKL由来のαヘリックスを中心とした配列がFRETに必須であることがプローブの改変から明らかとなった。さらにその改変されたプローブ「SMART」では培養細胞の増殖を抑制するという従来のプローブの欠点が解消され、培養細胞での恒常的な発現系を確立することができた。その結果、SMARTによるネクロプトーシス誘導の検出はMEFなどの他のマウス由来の細胞でも見られ、マウスの組織でもSMARTがネクロプトーシスの検出に有用である可能性が示唆される結果となった。3) ネクロプトーシスを阻害する目的でネクロスタチン-1あるいはGSK'872を用いて解析したところ、FRETが検出できなかった。これらの薬剤はMLKLを活性化するタンパク質キナーゼRIPK3の活性を阻害することから、SMARTはネクロプトーシス誘導時のRIPK3の活性化をモニターできるプローブであることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
プローブのネクロプトーシスに対する細胞死特異性とマウスの細胞に対する種特異性は計画通り証明することができた。またプローブのうちFRETに必要な領域を決定できた。さらにその配列以外をリンカー配列に置換することでSMARTの開発に成功した。その結果、来年度以降に予定していたFRETプローブの培養細胞での恒常的な発現系を確立することができたため当初の計画よりも進展した結果を得ている。また完全に解明されていなかったFRETの分子メカニズムについてもFRETがRIPK3の活性に依存する結果からネクロプトーシス実行時のRIPK3の活性化およびネクロソーム形成をモニターできるという結論にいたることができた。
当初の計画通り、SMARTプローブを導入したトランスジェニックマウスを作製する。マウスからマクロファージや初期培養細胞を調製し、これまでに見られたネクロプトーシス実行時のFRET解析を行う。さらに病態モデルマウスの皮膚組織や腸管上皮でのネクロプトーシス検出系を確立し、FRET解析を行うことで組織内でのネクロプトーシスを継時的に検出する。またネクロプトーシス実行時に細胞外に放出されるDAMPsや炎症性サイトカインに注目し、FRET解析とDAMPsあるいは炎症性サイトカインの放出を同時に解析できる系を確立する。さらに細胞死に応答してネクロプトーシスが誘導される様子をモニターできる系をin vitroで構築する。
研究に使用するプラスチック器具などの購入時期をメーカーのキャンペーン期間に合わせることで予定した予算よりも少額で計画を遂行できたことによる。
次年度使用額を引き続き研究予算として使用することでより効率よく研究計画を推進する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件)
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