研究課題/領域番号 |
16K01378
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
村井 晋 東邦大学, 医学部, 助教 (90287540)
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研究分担者 |
中野 裕康 東邦大学, 医学部, 教授 (70276476)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1分子FRET / 計画的ネクローシス / RIPK3 / MLKL / ネクロプトーシス |
研究実績の概要 |
前年度、計画的ネクローシス(以下ネクロプトーシス)をモニターできるFRETバイオセンサーSMARTの作製に成功し、マウス線維芽腫由来のL929細胞でのin vitroでのネクロプトーシス検出系の構築に成功したことを報告した。今年度はMEF(mouse embryonic fibroblast)やマウス大腸上皮由来のaMoc1におけるSMARTによるネクロプトーシス検出系を構築した。これらの細胞においても(1) TNFαによるネクロプトーシス誘導時にFRETが起こること、(2) ウイルス感染を模倣したPoly(I:C)刺激によるネクロプトーシス誘導時にFRETが起こることが確認できた。これらの知見からSMARTが正常細胞においても種々の細胞死刺激によるネクロプトーシスをモニターできることが明らかとなった。さらに細胞の種類にかかわらずFRETの起こり始めから細胞膜が傷害を受けるまでの時間がほぼ同じであることから、ネクロプトーシスの実行に必要なRIPK3の活性化以降のシグナル伝達速度は細胞種によらず一定で、ネクロプトーシス実行に必要なRIPK3の活性化に要する時間の差によって細胞死の応答性に多様性が生まれることが示唆された。SMARTはマウスの細胞でのみネクロプトーシスをモニターできるプローブであるため、ヒトの細胞でのバイオセンサーの開発を行った。ヒトMLKLのアミノ酸配列を元に細胞毒性を抑える改変を加えたFRETプローブを作製して、HT29に導入してネクロプトーシスをモニターした。その結果、HT29のネクロプトーシス実行に伴ってFRETが起こるセンサーを開発した。これをhSMARTと命名しHaCaTなど別の培養細胞でもネクロプトーシスをモニターすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験計画時に平成29年度予定していたFRETプローブの改変は平成28年度に完了しており、すでにマウス由来のいくつかの培養細胞でSMARTの発現系を構築できている。さらに当初の研究計画にはなかったヒトの培養細胞においてhSMART によってネクロプトーシスのモニター系を構築できた。その結果、マウス由来の培養細胞と同様にヒトの培養細胞においてもFRET解析によるネクロプトーシスのモニターに成功している。。また来年度から開始予定であったSMARTのトランスジェニックマウス作製の計画もすでに国内の研究協力者により推進されている。このように研究計画自体が予定していたよりも効率よく推進されているだけでなく、当初計画していなかった研究について推進することができた。その結果、研究内容がより充実したものになり、より多くの知見を得ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
SMARTプローブを導入したトランスジェニックマウスの作製を継続して行う予定である。将来的にはin vivoでのネクロプトーシスのFRET解析を行う予定だが、計画最終年度であるという時間的な制約と研究設備の問題からマウスの個体レベルの解析は行わない。その代わりに得られたトランスジェニックマウスからマクロファージや皮膚や腸管から調製した初代培養細胞を調製し、これまでに見られたネクロプトーシス実行時のFRET解析を行うことで組織内でのネクロプトーシスを継時的に検出する。 また研究の過程でネクロプトーシス誘導時にFRETが起こるにも関わらずその後FRETが解除され再び生存する細胞やblebbingを起こしてアポトーシスで死ぬ細胞が存在することを見出した。この現象はネクロプトーシスの実行自体に可逆性がありシグナル伝達分子の活性のバランスによって個々の細胞の運命がネクロプトーシスあるいはアポトーシスの実行もしくは生存に導かれている可能性が示唆している。そこでアポトーシスのモニターできるバイオセンサーを細胞に導入し、アポトーシスとネクロプトーシスを同時にイメージングできる系を確立する予定である。このシステムを用いて細胞死実行のシフトや生存と細胞死のバランスの変化によってどのように細胞の運命が決定されるかを詳細に解析する予定である。具体的には(1) 細胞死を免れた細胞がその後、生存可能な状態になる現象をイメージングし、細胞死刺激の条件によって生存率が変化するかを確認する。(2) ネクロプトーシス誘導後に細胞死がアポトーシスにシフトする現象の再現性の確認と細胞死のシグナル伝達経路の可逆性がどの時点まであるかを遺伝子ノックダウンあるいは細胞死の阻害剤を用いたイメージングから明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた国際学会への参加が平成30年度に変更となったため、その分の海外旅費が繰り越しとなったことが要因となっている。 研究計画の最終年度であるため、国際学会での発表および論文発表を行い研究成果を公表することを研究計画と合わせて推進する予定である。
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