研究課題/領域番号 |
16K01386
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
稲田 慎 姫路獨協大学, 医療保健学部, 准教授 (50349792)
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研究分担者 |
中沢 一雄 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 非常勤研究員 (50198058)
池田 隆徳 東邦大学, 医学部, 教授 (80256734)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (80396259)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 房室結節 / シミュレーション / 心拍数制御 / 自律神経 / 心房細動 |
研究実績の概要 |
心臓の刺激伝導系の一つである房室結節は,心房と心室とを電気的につなぐ組織である.房室結節の役割として,電気的興奮の遅い伝導により,心房と心室との間に収縮時間の差をつくること,不整脈の一つである心房細動時において速い心房の興奮を必要以上に心室へ伝えないことで心室を守るフィルタの役割等がある.臨床における心房細動の治療としては,心房細動を停止させることで通常の心拍である洞調律を回復させるリズムコントロールと,心房細動は持続させた上で,房室結節において心室への電気的興奮伝導を制御するレートコントロール(心拍数制御)がある.本研究では,房室結節の解剖学的構造や機能をコンピュータシミュレーションを用いて明らかにすることで,不整脈の新たな治療戦略構築を目指している.本研究ではまず,これまでの研究で開発を行ってきたウサギおよびヒトの房室結節を構成する心筋細胞の活動電位モデルを用いて,電気的興奮伝導・伝播をシミュレーションにより再現することが可能な心筋組織モデルを構築する.次に,構築した心筋組織モデルの応用として,レートコントロールのメカニズムなど,房室結節の機能の解明を目指している.平成29年度までの研究では,主にウサギの心筋細胞モデルを用いて構築した心筋組織モデルによるシミュレーションを行ってきた.その結果,房室結節のケーブルモデルを用いることで,心房細動時における房室結節の応答および薬物による心拍制御メカニズムが解明されるとともに,房室結節の3次元モデルを用いることで,房室結節内の複雑な興奮伝播ならびに自律神経活動が房室結節内の電気的興奮伝播へ及ぼす作用等が明らかとなった.これらの研究成果は,房室結節の解剖学的および電気生理学的特徴や心房細動に対するレートコントロールにおける治療戦略を理論的に検討する上で重要な基礎データになると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度には,当初の計画では,ウサギやヒトの房室結節の3次元モデルを用いた電気的興奮伝播のシミュレーション実験を進めるとともに,心房細動の治療を想定した実験として,アブレーション(焼灼)や抗不整脈による作用の検討や,心電図PQ間隔の詳細な計算を行う予定であった.この中で,ウサギの3次元モデルを用いたシミュレーションについては,電気的興奮伝播が再現されるとともに,自律神経活動と房室結節内の電気的興奮伝播との関係を検討することができるなど,十分な成果を上げることができた.しかしながら,その他の課題については十分な成果を上げることはできなかった.そのため,研究全体としてはやや遅れていると判断した.ただし,アブレーションを想定したシミュレーション実験や心電図の計算を行うための準備は既に整っているため,平成30年度内に実施可能である.一方で,ヒトの房室結節の組織モデルの開発については,組織モデルの基盤となる心筋細胞モデルを用いた予備実験において,得られた活動電位が不安定であることが明らかとなった.心筋細胞モデルの改良には,電気生理学的データの収集が必要であるが,現状では十分なデータはなく,改良は困難な状況である.そのため,これまでに開発したモデルを基盤としつつ,実測データを用いない改良を進める必要が生じている.一方で,全心臓モデルの構築を目指した心筋各部位の組織モデルの開発は並行して進めている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,ヒト心筋細胞モデルを用いた組織モデルの構築や,全心臓モデルの構築も視野に入れていた.しかしながら,平成29年度までの研究の進捗状況を考慮し,最終年度である平成30年度は研究計画をやや縮小し,ウサギ房室結節の組織モデルを用いたシミュレーションを中心に進める予定である.具体的には,昨年度までに構築した3次元の房室結節組織モデルを用いた電気的興奮伝播のシミュレーションを引き続き行う.まずは,房室結節内の旋回性興奮や心房細動に対する房室結節の応答,薬物に対する作用などを再現し,これまでの研究で得られているケーブルモデルを用いたシミュレーション結果と比較検討する.次に心房細動に対する治療戦略の検討として,心房細動に対する薬物やアブレーションによる治療の有効性を検討する.特に,アブレーションのシミュレーション実験は,ケーブルモデルでは得ることができないため,新たな知見が得られることが期待できる.また,全心臓モデルの構築を目指した心臓各部位の組織モデルの開発は引き続き行う.具体的には,房室結節を除く心臓刺激伝導系として洞結節,ヒス束,プルキンエ線維,心筋組織として心房筋および心室筋である.心筋組織については,組織の3次元的構造や電気生理学的特性の心筋各部位のおける違いを考慮したモデル開発を行う.さらに,ヒトモデルへの拡張も視野に入れ,ヒト心筋細胞モデルの改良も引き続き進める.現状では,電気生理学的データの収集は困難であるため,モデルのパラメータ調整による改良を進めることとする.進捗状況に応じて,ヒト心筋組織のケーブルモデルや3次元組織モデルの構築も目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に所属が姫路獨協大学より森ノ宮医療大学へと移った.そのため,新たに研究環境を構築する必要が生じた.このことを考慮し,平成29年度の研究費の一部を平成30年度に使用することを考えた.本研究の計画段階では,全心臓モデルの構築を目指していたが,研究の進捗状況を考慮し,今年度は全心臓モデルの構築を積極的には目指さないこととした.ただし,全心臓モデルの構築に必要な要素である,心臓各部位のモデル構築は今年度も引き続き行う.以上のことより,今年度用いる心筋組織モデルは3次元の房室結節モデルが最大のモデルになると考えられ,この場合,シミュレーションの実行は既存の計算環境で行うことが可能である.そのため,当初は購入予定であったワークステーションの購入は見送ることとした.平成30年度は研究計画の最終年度であるが,上記の理由から,新しい所属において,これまでの研究成果をまとめるためのストレージを購入するなど,新たな研究環境を整備するとともに,これまでの研究成果の発表として,国内外での発表を考えている.以上の用途に研究費を使用する計画である.
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