本研究は、種々の脱細胞化組織を基盤材料として、シャペロン機能を有するナノゲルを複合化した心筋組織の治癒促進材料を開発し、新規の心筋梗塞治療システムを構築することを目的としている。 昨年度までに得られた知見に基づき、本年度は脱細胞化小腸粘膜下組織(SIS)および膀胱マトリクス(UBM)を可溶化・再構成することで種々のECMハイドロゲルを作製した。種々のECMハイドロゲル上においてラット脳微小血管内皮細胞(RBMVEC)を播種し、細胞増殖、形態および血管網形成について詳細に検討した。細胞の増殖はいずれにおいても明らかな違いは観察されなかった。コントロールとして用いたコラーゲンゲル上では、細胞凝集塊が形成後、凝集塊間においてチューブ様構造が形成した。一方、ECMハイドロゲル上では細胞凝集塊は形成されず、細胞間でチューブ様構造の形成が観察された。これらのチューブ様構造は培養日数の増加に伴い増加し、培養5日目において血管網様のネットワークが形成することが明らかとなった。さらにSIS由来ハイドロゲルに比べ、UBM由来ハイドロゲルの方がより網目の細かいネットワーク構造を形成していることが明らかとなった。以上のことから、脱細胞化UBMの方が毛細血管の誘導能が高いことが示唆された。次にラット心筋梗塞モデルを作製し、in situゲル化によりナノゲル架橋ゲル単独あるいはナノゲル架橋ゲル/UBM-ECMハイドロゲル複合材の有用性について検討した。未処置群およびナノゲル架橋ゲル単独処置群では、心筋の菲薄化および線維化が観察された。一方、ナノゲル架橋ゲル/UBM-ECMハイドロゲル複合材処置群では、心筋の菲薄化および線維化が抑制されることが明らかとなった。以上のことから、ナノゲルと脱細胞化生体組織を複合化した本材料は、心筋梗塞治療への応用可能性が示唆された。
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