研究課題/領域番号 |
16K01392
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
下田 恵 大分大学, 医学部, 准教授 (40284153)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素化学 / 生物変換 |
研究実績の概要 |
肝癌をターゲットとする、ドラッグデリバリーシステムへの応用を目的として、抗腫瘍性化合物の誘導体の合成を行った。方法として、植物培養脂肪が持つ物質変換機能を利用した、抗腫瘍性化合物の官能基への化学的修飾により、抗腫瘍性化合物の物性を改良することを検討した。抗腫瘍作用の高いスチルベン化合物について、Phytolacca americanaおよびEucalyptus perrinianaなどの植物培養細胞系を使用して、室温において、恒温インキュベーターを使用して回転振とうにより、生物変換を行った。その結果、スチルベン化合物の3位および3'位、4'位にグルコースが結合した変換生成物を得た。生成した化合物の化学構造は、マスならびに核磁気共鳴法により行った。一方、植物から精製した酵素を用いてスチルベン類の変換を検討した。酵素は、カラムクロマトグラフィーにより生成したのちに、変換反応に用いた。Phytolacca americanaには、異なる3種類の酵素が存在しており、今回は最も変換率の高い酵素3を反応に使用している。その結果、抗腫瘍作用を持つスチルベン化合物は、3位および3'位、4'位にグルコースが結合した生成物に変換されたほか、3位と5位をどちらもグルコース化された生成物へと変換された。このことは、Phytolacca americana細胞中に、グルコシダーゼなどの加水分解酵素が存在しており、生成した3位と5位をどちらもグルコース化された化合物の一方のグルコースが加水分解されたことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、肝細胞がんを標的化したドラッグデリバリーシステムを、抗腫瘍性化合物誘導体を利用して開発することであり、初年度は、抗腫瘍化合物であるスチルベン類を、植物培養細胞や酵素を利用してグルコース化することに成功しており、当初の目的通り、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに広範な抗腫瘍性化合物について、植物培養細胞や酵素を利用した生物変換により、誘導体を合成する。また、反応に使用する酵素の調製と、大量変換を容易にするために、さらなる活性を持つ酵素を、植物培養細胞において探索し、酵素の精製を行う。酵素は、抗腫瘍活性化合物を基質として投与を行い、生成物を、高速液体クロマトグラフィーによって確認して生成量を、検量線により求める。変換活性を持つ酵素画分は、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーにより、精製を行い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により、酵素蛋白質の精製を確認する。精製した酵素の限定加水分解物の分子量をマス スペクトルによって解析する。さらに、限定加水分解物のN末端のアミノ酸配列をペプチド シークエンサーによって決定する。cDNAのインサート領域をSP6およびT7ポリメラーゼのプロモーター付近に隣接させたcDNAライブラリーをlgt22で作製する。次に、先に決定したアミノ酸配列に対応するプライマーを合成し、このcDNAライブラリーを鋳型として用い、PCRによる増幅を行う。PCR産物をDNAシークエンサーにかけ塩基配列を決定し、アミノ酸配列に翻訳する。cDNAを含むlgt22を大腸菌に感染させ、菌内で酵素蛋白質を大量に発現させる。カラムクロマトグラフィーにより、得られた酵素の精製を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度合成した抗腫瘍性化合物の誘導体を利用した、ドラッグデリバリーシステムの、生体における効果を調べる研究は、次年度以降に実施することにしたため、次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度、継続して行われる、抗腫瘍性化合物の誘導体の調製と合わせて、生体における効果を調べる研究を行い、次年度分として請求した助成金と合わせた使用を計画している。
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