研究課題/領域番号 |
16K01394
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小山 義之 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (00162090)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 免疫治療 / エクソソーム / ネオアンティジェン / ネオエピトープ / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
腫瘍細胞から放出されたエクソソームは腫瘍関連抗原(TAAs)を持ち、抗腫瘍ワクチンとして期待された。しかし、TAAsは一般に免疫原性が低く、腫瘍細胞由来エクソソーム単独では効果がなかった。 一方我々は、抗原性の高い結核菌抗原、ESAT-6遺伝子を腫瘍細胞に導入し、「人工Neoantigen」として発現させることで、ESAT-6エピトープを表面に提示した「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」を調製し、これらが抗腫瘍免疫を効率的に活性化することを見出し報告してきた。 腫瘍細胞へのESAT-6遺伝子の導入が抗腫瘍細胞性免疫を誘導することは、これまでの経緯によってほとんど明らかであるが、腫瘍増殖抑制効果のプロファイルをみると、遺伝子導入から抑制までの応答が非常に早く、これまで考えてきた、樹状細胞がESAT-6エピトープを「危険信号」として認識し、腫瘍抗原とともにCTLに提示して抗腫瘍免疫を惹起する、という考えだけでは説明できなかった。そこで、投与直後の腫瘍組織内、および血中のサイトカイン濃度、腫瘍近傍への免疫細胞の浸潤などを詳しく解析したところ、投与一日後には腫瘍組織内に有意に多くのIba1陽性細胞が浸潤しており、また、TNFアルファなどの炎症性サイトカインの濃度が有意に上昇していた。このことから、ESAT-6遺伝子の導入は獲得免疫の誘導だけでなく、投与直後には自然免疫の活性化を引き起こしていることが見出された。 これらの応答がESAT-6の遺伝子を導入した腫瘍細胞が分泌する「ESAT-6エピトープ提示エクソソーム」によって誘導されることを調べるため、単離したエクソソームを培養DCに加え、その応答を調べた。解析方法をほぼ確立し、初期的ながらポジティブな結果を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」を担癌モデルマウスに投与することで良好な抗腫瘍効果が得られることをこれまで確認してきた。想定していた抗腫瘍免疫誘導の機序では投与から応答まで数日以上の日数が必要となるはずであるが、ESAT-6遺伝子の導入は1~2日以内に高い増殖抑制効果を引き出していた。そのため、当初想定していたもの以外の新たな抗腫瘍機構が存在することを予想していた。 今年度の研究において、本免疫治療における自然免疫活性化という新しい治癒メカニズムの存在が初めて確認された。このことは、今後のさらに効果の高い製剤を設計していくうえで非常に重要な情報であり、「人工ネオ・エピトープ免疫治療戦略」の新しい可能性を示唆するものである。
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今後の研究の推進方策 |
培養DCを用いた「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」の効果を詳細に検討し、作用機序を明確にする。 また、これまではシンジェネイックモデルを用いて、患者本人の腫瘍由来のエクソソームの効果を検討してきた。より実用的な展開を考えると、他家のエクソソームによる治療効果が重要である。そこで、アロジェネイックなモデルでの効果、異種のガンに対する効果の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析試薬の納品に時間がかかったため。 培養DCを用いて「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」の効果を検討するためのエクソソーム単離試薬、細胞培養試薬・器具、解析試薬などを購入する。また、アロジェネイックなモデルでの効果、異種のガンに対する効果の検討を進めるためのエクソソーム単離試薬、細胞培養試薬・器具、解析試薬、マウスなどを購入する。 研究のディスカッション、および実験を行うため、大阪府立大学に出張するための経費を支出する。研究結果を発表、討論するため、国内外の学会に参加するための経費を支出する。
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