研究課題/領域番号 |
16K01394
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小山 義之 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (00162090)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人工ネオエピトープ / 人工ネオアンティジェン / エクソソーム / 抗腫瘍免疫治療 / 結核菌抗原 / ESAT-6 |
研究実績の概要 |
腫瘍関連抗原(TAAs)は抗腫瘍免疫のターゲットとして期待される。しかし、腫瘍細胞は元々患者本人の細胞が悪性化してできたものであり、非変異型のTAAsは一般に免疫原性が低い。一方、腫瘍特異的な変異型の腫瘍抗原、ネオアンティジェンは、効率よく抗腫瘍免疫を惹起する可能性がある。しかし、腫瘍細胞がネオアンティジェンを持つ患者の割合は低い(20~30%)。 我々は、抗原性の高い結核菌抗原、ESAT-6の遺伝子を腫瘍細胞に導入して「人工ネオアンティジェン」として発現させ、免疫を活性化する戦略を開拓した。遺伝子導入した腫瘍細胞はESAT-6エピトープを「人工ネオエピトープ」として表面に提示しており、その細胞が分泌したエクソソームも同様にESAT-6エピトープを提示していることを確認した。 ESAT-6エピトープ提示エクソソームは、担癌マウスに投与すると、高い抗腫瘍効果を示した。このような人工ネオエピトープ提示エクソソームが抗腫瘍効果を発現する機序として、樹状細胞がこれらのエクソソームを取り込み、微生物抗原エピトープを「外来危険信号」として認識し、腫瘍抗原とともにCTLに提示して抗腫瘍免疫を惹起するメカニズムを考えた。そこで、この機構を確認するために、培養腫瘍細胞を用いてESAT-6エピトープ提示エクソソームを調製し、培養DCに加えてDCの活性化が誘導されるかを検討した。 これまでに、マウスの単球から誘導した培養樹状細胞に「人工ネオアンティジェン」提示エクソソームを取り込ませると、CD80、CD86などの共刺激因子、ならびにIL-12などのサイトカインの発現が向上し樹状細胞が効率的に活性化することを確認した。また、同エクソソームで活性化した樹状細胞を担癌マウスに投与すると、顕著な腫瘍増殖抑制効果が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗原性の高い結核菌抗原、ESAT-6遺伝子を培養腫瘍細胞に導入してESAT-6タンパクを「人工ネオアンティジェン」として発現させ、その培養上澄からESAT-6エピトープを「人工ネオエピトープ」として表面に提示したエクソソーム、ESAT-Exを得る方法を検討した。遺伝子導入に際して、プラスミドDNA/PEI/コンドロイチン硫酸三元複合体システムを用いることで、エピトープ提示量の高いESAT-Exが効率よく大量に得られることを見いだした。 ESAT-Exは担癌マウスに投与すると著しい腫瘍増殖抑制効果を示した。また、ESAT-Exを正常マウスに投与後、所属リンパ節から採取したリンパ球は高い抗腫瘍活性を示した。さらにESAT-Exが抗腫瘍免疫を誘起する機序を検討していく中で、昨年度は、ESAT-6遺伝子の導入が、獲得免疫の誘導だけでなく、投与直後にはマクロファージを活性化し、自然免疫を活性化していることを見いだした。 抗腫瘍獲得免疫を誘起する機序を確認するために、ESAT-Exを培養DCに加え、DC活性化を誘導する効果を検討した。マウスの単球から誘導した培養樹状細胞にESAT-Exを取り込ませると、CD80、CD86などの共刺激因子、ならびにIL-12などのサイトカインの発現が向上し樹状細胞が効率的に活性化することが確認された。また、同エクソソームで活性化した樹状細胞を担癌マウスに投与すると、顕著な腫瘍増殖抑制効果が得られた。これらの効果は「人工ネオエピトープ」を持たないエクソソームには見られなかった。 以上の結果から、「人工ネオエピトープ」提示エクソソームは、これを取り込んだ樹状細胞を成熟させ、T細胞をESAT-6とTAAsに対してクロスプライムさせることで抗腫瘍獲得免疫を誘導したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
培養DC、培養マクロファージを用いた「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」の免疫活性化機能の再現性を検討し、作用機序を明確にするとともに、より活性の高いエクソソームの調製条件を検討する。 また、これまでは患者本人の腫瘍細胞由来のエクソソームを用いた治療を念頭に置き、培養腫瘍細胞を用いてエクソソームを調製し、その効果を検討してきた。しかし、患者から採取した腫瘍細胞を培養することは容易ではない。そこでより実用的な展開を考え、正常筋組織などから採取して培養した線維芽細胞を用いた「人工ネオ・エピトープ提示エクソソーム」の調製法の検討を行う。効率よくESAT-6エピトープ提示エクソソームが正常細胞から得られたら、それらの樹状細胞、マクロファージに対する活性化機能を検討し、また、担癌マウスを用いてその抗腫瘍効果を評価する。同時により広く臨床に展開するためには他家のエクソソームによる治療が望まれる。そこで、アロジェネイックなモデルでの樹状細胞活性化効果、異種のガンに対する抗腫瘍免疫誘導効果についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業の目的をより精緻に達成するために、2019年度に結果の再現性を見るためのマウスを用いた動物実験を追加してエクソソーム製剤の効果の確認を行う。そのためにマウス、定量試薬を購入し、再現性の確認実験を行う。 さらに確認された免疫活性化の効果を含め、研究成果を学会で発表し、議論するための経費を必要とする。また、研究成果を論文等で発表するための経費が必要となる。
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