研究課題/領域番号 |
16K01395
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
佐野 健一 日本工業大学, 工学部, 教授 (80321769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / タンパク質工学 / 細胞内デリバリー / コイルドコイル |
研究実績の概要 |
研究代表者らが、開発したCCPC 140は、剛直で異方性の高い構造を持つカチオン性の人工タンパク質であり、優れた細胞内薬物送達担体となると考え、研究を進めている。平成29年度は、前年度に引き続き、モデル高分子薬の細胞内DDSとしての可能性を検討した。前年度の知見から、レセプター依存性のエンドサイトーシス経路が、融合したタンパク質(GFP)によって抑制されたことから、別のタンパク質でも同様の現象が見られるか検討した。将来的な細胞内薬物送達担体としての応用も視野に入れ、単量体で高いビオチン結合能を持つストレプトアビジン変異体をリンカー配列を介して融合した、CCPC 140-mSAを作成した。ビオチン化蛍光色素と混合し、遊離の色素を取り除いた後、CCPC 140-mSAを培養細胞に与えたところ、CCPC 140-GFPと同様の細胞透過能を示す一方で、CCPC 140-GFPで顕著であった細胞膜への蓄積は、それほど長時間観察されなかった。これらの結果から、レセプター依存的なエンドサイトーシスの抑制は、CCPC 140と融合する分子の性質によって異なる可能性が示唆された。CCPC 140の細胞透過プロセスは、まずCCPC 140と細胞膜表面との静電相互作用によって細胞膜への吸着が起こり、次にCCPC 140がレセプター依存性のエンドサイトーシスを誘導すると考えてきた。近年、細胞膜のパータベーションによる細胞内への低分子薬の導入の試みが盛んに行われるようになってきた。これらの報告を併せて考えると、CCPC 140の構造異方性が細胞膜のパータベーションを惹起し、その結果、何らかの形でCCPC 140の細胞への取り込みを促進する可能性が高い。今年度、並行して実施した分子長を変えたCCPC 140の派生体の細胞透過能の解析結果からもこの可能性を検討する必要があることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたCCPC 140が誘起するレセプター依存性エンドサイトーシスのターゲット分子の同定は、上手くできていない。しかしながら、最近の他の研究者からの報告と本研究によって、レセプター依存性エンドサイトーシスと考えてきた部分のかなりの部分が、CCPC 140が惹起する細胞膜のパータベーションによる細胞膜裏打ち構造への物理刺激とそれに伴って誘起されるエンドサイトーシスを含む何らかのプロセスによって、CCPC 140が細胞に取り込まれる可能性が高いことがわかって来た。イオンチャネルなどでも、リガンド結合による開閉だけでなく、物理刺激によっても開閉するものが知られている。CCPC 140は、レセプター依存性エンドサイトーシスでも同様のことが起こるのかを調べる格好の材料であり、極めて興味深い発見であることは間違いない。またCCPC 140の派生体の解析から、高い細胞透過活性に必要な分子長を明らかにすることができたなど(論文執筆中)、十分な研究成果も出ている。 研究成果の一部は、ACS National Meetingにおいて発表した。これらのことから本研究課題は、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28, 29年度の成果を元に、引き続きエンドサイトーシスを活性化するレセプター分子の探索を続ける。これまで、ターゲットを絞る試みで顕著な結果が得られなかったため、半網羅的な方法で探索する。具体的には、今年度作成したCCPC-140-mSAを利用して、細胞の膜画分をpull downし、質量分析を用いて、親和性のある分子を同定し、データ検索により、エンドサイトーシス誘導能を持つ分子を絞り込んでいく。また並行して、今年度の成果から検討の必要が生じた、細胞膜のパータベーションがエンドサイトーシス経路を惹起する可能性について詳細な検討を加える。これらの研究成果は、日本生化学会、日本生物物理学会、高分子討論会で発表することを予定している他、 専門誌への論文投稿をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行した。 (使用計画) 研究計画に大きな変更は無く、平成28,29年度の研究費も含め、当初の予定に従って計画を進めていく。
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