研究課題/領域番号 |
16K01399
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
加藤 徳剛 明治大学, 理工学部, 専任教授 (90329110)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞膜 / 多光子励起顕微鏡 / 微粒子 / 薬物送達システム |
研究実績の概要 |
新しい細胞膜損傷試験法として非線形光学アッセイを提案した。両親媒性極性蛍光分子で染色した細胞膜から得られるSHG強度(ISHG)とTPF強度(ITPF)を用いる方法である。特にISHGの方が、細胞膜の脂質分子の配向秩序を反映するので、ISHG/ITPF値を用いて損傷の程度を評価する。従来の細胞毒性試験では、細胞障害性を検出できない毒物質の低濃度領域において、本研究で提案したアッセイ法では検出可能であることを示した。 ポリエチレングリコール(PEG)またはポリカチオンで被覆した粒径1μmの粒子の内在化経路を評価した。ポリカチオン被覆粒子の多くは、生命活動とは関係なく、細胞膜を破って細胞内へ移行(内訳60%)した。また、ファゴサイトーシスによる内在化(内訳20%)も観察された。ポリカチオン被覆粒子が、膜を破って内在化することを検証するため、脂質小胞体(LUVやGUV)と微粒子の相互作用を観察した。小胞体と微粒子間に静電引力が働く場合は、静電斥力が働く場合と比べ、小胞体をより破壊することが分かった。また、小胞体が破壊されなくても、粒子との混合で、小胞体に内包された色素が漏出することも分かった。このような小胞体を用いた実験結果から、細胞に静電吸着する粒子が物理的に細胞膜を破壊することが検証された。一方、PEGで被覆した粒径1μmの粒子の多くは、マクロピノサイトーシスにより内在化(内訳80%)されることが分かった。これまで、複数の阻害剤を用いて、内在化経路の内訳を調査してきたが、両方の粒子に内在化経路のうち20%分の経路が、未同定のままである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
提案した非線形光学アッセイは、多光子励起顕微鏡を用いる必要がある。また、粒子の内在化を調べるためには、共焦点レーザ走査型蛍光顕微鏡を用いる必要がある。これらの顕微法が一体となった顕微鏡を用いている。この顕微鏡に不具合が起き、研究の進捗があまり得られなかった。このような状況でも得られた成果を以下にまとめる。 細胞に静電吸着して細胞毒性が高いポリカチオンに対して、高い感度で細胞損傷を検出した非線形光学アッセイにおいて、生体適合性があるPolyHPMAを細胞に暴露したら、細胞膜の損傷が検出されなかった。電荷が殆どないPolyHPMAは、細胞膜に物理的な作用を示さないので、脂質分子の乱れを引き起こさない。従って、提案した非線形光学アッセイは細胞膜を構成する脂質分子の配向の乱れを検出していることと矛盾しない結果が得られた。 粒子の内在化経路の内訳を調べるため、複数の阻害剤を用いて調査を行い、マクロピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、カベオラ依存エンドサイトーシスによる経路については調査を済ませた。そして、ポリカチオンまたはPEGで被覆した粒径1μmの粒子については、カベオラ依存エンドサイトーシスにより取り込まれることは無いことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
代表的な内在化経路のうち、また調査が済んでいないクラスリン依存エンドサイトーシスの経路についての調査を行い、内在化経路の内訳の結論を出す。また、細胞の動きをその場観察して、内在化した粒子や細胞がその後どのようになるのかも調査する。また、多光子励起顕微鏡を用いて、粒子の接触や内在化が細胞膜へ与える影響をその場観察する。 これまで内在化に用いてきた粒子には、細胞表面に結合するリガンドや抗体が無い。従って、リガンドレス粒子の細胞内移行に関する評価を行ってきた。次年度は、粒子表面にリガンドを結合させて、静電吸着でない方法で積極的に細胞表面に粒子を吸着させることが、粒子の細胞内移行や細胞膜の構造に、どのような影響をもたらすのかを明らかにする。HeLa細胞などのガン細胞の表面には、葉酸レセプターが過剰発現していることが知られている。そこで、リガンドとして葉酸を表面に結合させた粒子を用いて、粒子の細胞内移行や細胞膜の構造への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に、研究を推進するうえで必要な顕微鏡に不具合が発生した。本研究では多光子励起顕微鏡と共焦点レーザ走査型蛍光顕微鏡を必要としている。これらの顕微鏡が、一体となった装置を使用している。本研究では、細胞や微粒子の様子をこの装置にて撮像して、その像を解析することで、微粒子の細胞毒性と微粒子の細胞への内在化の程度を評価する必要がある。この顕微鏡に不具合が発生し、計画していた実験を実施するのが、平成30年度において困難になったため、補助事業期間延長を申請した。このような経緯から、次年度使用額が生じた。なお、現在はその不具合はほぼ解消されている。 次年度使用額については、細胞の継代や試料作製に用いる超純水作製装置のフィルタや試薬、ガラス器具やプラスチック器具などの消耗品を購入するのに使用する。
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