研究課題/領域番号 |
16K01402
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
荏原 充宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトにクス研究拠点, MANA准主任研究者 (10452393)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炎症 / アポトーシス / スマートポリマー |
研究実績の概要 |
炎症は、古くから熱・痛みを伴う赤みや腫れと広く理解され、感染や組織傷害に対して生体が発動する組織修復機構とされてきた。しかし、近年、この炎症が消散せず慢性化した状態が、数々の疾患の要因となっていることが示唆されている。最近の研究においても、アルツハイマー病の初期あるいは病気の確定後に、炎症に関与する抗体を投与することで症状が緩和し、認知課題において記憶が改善することが報告されている。しかし、抗体医薬は非常に高価であり、低分子薬の数倍から数十倍もする薬価がその普及を妨げている。そこで本提案課題では、アポトーシスを起こした細胞が細胞膜表面に露出するフォスファチジルセリン(PS)を介して免疫反応を抑制することに注目し、PSと類似構造を有するアポトーシス模倣新規合成ポリマーの合成およびその炎症治療への応用、特にアルツハイマー病への応用を目指す。日本の医療・介護予算は43兆円を超えるが、この背景にあるのがアルツハイマー型認知症の蔓延による要看護者数の増加である。一般に、アルツハイマー病を含む要介護が必要な疾患の約60%が何らかの炎症が原因であることが明らかとなっている。本課題で提案するようなアポトーシス細胞模倣型合成ポリマーが実現できれば、特異性と汎用性の両方を兼ね備えた新たなバイオマテリアルとしてその社会的インパクトは計り知れない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、PSポリマーの抗炎症効果について詳細に検討した。抗炎症評価用の細胞としてマウス由来マクロファージであるRAW264.7を選択しており、これに対する毒性、用量・共培養時間依存的抗炎症活性、用量依存的な細胞への取り込みをそれぞれ評価した。結果としてpoly(MPS)は0-50 mMの濃度域では細胞毒性を示さないことを明らかとし、用量・共培養時間依存的な抗炎症活性を確認した。これと同時に行った細胞への取り込み評価においても用量依存的にマクロファージへと分配していることを明らかとした。これに加え、ホスファチジルコリン模倣モノマーである2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)とのランダム共重合体(poly(MPS-st-MPC))を作製した結果、poly(MPS-st-MPC)がMPSのホモポリマーに比してより優れた抗炎症能を有するということを明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
PSポリマーによる抗アルツハイマー性評価を行うため、脳免疫細胞MG-6(ミクログリア状細胞)にアミロイドb刺激を加え、細胞間伝達物質の産生量から抗アルツハイマー性を評価する。細胞間伝達物質はベータ型変異増殖因子(TGF-bアルツハイマー抑制)と腫瘍壊死因子a(TNF-a:アルツハイマー促進)の産生量を測定する。また、神経細胞(PC-12)へ与える毒性をMTTアッセイによって評価する。以上の実験を踏まえ、低毒性かつアルツハイマー治癒能の高いPSポリマーの最適形態を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリマー設計が順調に進んだため、ポリマーの解析を優先的に進めた結果、本来H29年度に行うはずだったバイオ実験で雇用するはずの研究業務員がH30年度にずれこんだため。
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