本研究ではヒトの血液との類似性,入手が容易な点,報告例が多いことなどの理由からブタ血液を使用して実験を行った。本論文においては,まず赤血球に対して凝集作用を持つことが知られているデキストランを用いてブタ血液中の赤血球凝集度を制御し,これを顕微鏡観察,界面沈降速度といった従来法により観測する。続いてこれらの結果と,我々がこれまで赤血球凝集度を推定するための指標として検討を重ねてきた超音波の反射スペクトルピーク周波数(以下,ピーク周波数)との関連について調査する。これによりピーク周波数を用いた赤血球凝集度モニタリング手法の可能性を検討する。即ち本研究は「血液粘度-赤血球凝集度-超音波ピーク周波数」のうち,未知の部分である「赤血球凝集度-超音波ピーク周波数」関係を明らかにすることによって血液粘度推定を目指した。 超音波による非侵襲血液粘度測定を目標とした本研究では血液粘度と赤血球凝集度との強い関係に立脚し,赤血球凝集度の制御,赤血球凝集度の従来法による測定および赤血球凝集度とピーク周波数の関係の調査を行った。ピーク周波数と凝集径間,及びピーク周波数と界面沈降速度間で高い相関が得られたことから,赤血球凝集度をモニタリングする指標としてのピーク周波数の可能性が示された。本研究ではデキストラン70 の赤血球凝集作用を利用したが,粘度までもが連動して血液模擬されるわけではない。今後は凝集度及び粘度を同時に模擬する手法を構築し,赤血球凝集度-血液粘度間,血液粘度-ピーク周波数間の定量的な関係を明らかにすることが必要となる。また界面沈降速度がHct により変化することから,Hct は凝集度に影響を与えることが予想され,ピーク周波数に影響を与えるパラメータであると考えられる。Hct はヒトの個体によって差があることから補正手法の確立が求められる。
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