研究課題/領域番号 |
16K01419
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
紺野 啓 自治医科大学, 医学部, 准教授 (00323139)
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研究分担者 |
山越 芳樹 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (10174640)
谷口 信行 自治医科大学, 医学部, 教授 (10245053)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | せん断波 / 伝搬速度 / 空間的プロファイル / 弾性 / 加振 / 体表臓器 / 運動器 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
CD SWI法は新規の組織弾性評価法である。本法は体表から小型の加振器で組織を励振し、組織内に生じる弾性波の一種であるせん断波の伝搬を、超音波診断装置のデフォルトの装備であるカラードプラ法を用いて可視化して、精度の高い伝搬速度計測を行う手法である。 本研究は、本法を用いることにより、体表各組織のせん断波の伝搬速度計測値と伝搬状態の空間的プロファイルから、各種疾患の組織弾性学的特性を明らかにし、これを用いた新たな診断法を模索しようとするものである。 今年度は昨年度に引き続き、主として骨格筋を対象に、各種条件下で本法による評価を行い、臨床的な計測における様々な至適条件を明らかにした。これにより昨年度までに明らかにした、評価対象の範囲と限界、加振周波数・方向を含めた加振方法などの基本的計測条件、本法の基本的な計測精度に加え、筋組織の評価においては特に重要となる、関節の伸展・屈曲の影響、実際の計測時には不可避となるプローブによる圧迫の影響を含めた、臨床的な計測における至適条件および限界を明らかにすることができた。 これにより、本法を用いた骨格筋のせん断波伝搬速度計測を、臨床応用可能な評価手法として確立することができたものと考えている。今後、他の組織を対象に評価を行う場合には、対象に応じて多少のモディファイが必要となる可能性はあるが、今回確立した骨格筋における評価法の多くの部分が応用可能と考えられる。 同時に適応と限界を主とする本法の特性(適性)についても大まかに把握できた。すなわち骨格筋そのものは本法の良い対象となるが、深部の筋の評価は難しいこと、評価が可能と期待された筋膜レベルの評価は困難と考えられること、反面、筋の伸展・屈曲に関する評価については大きな可能性があることなどである。今後は特にこれらの特性を生かすことができる対象・疾患について、臨床的検討を行う方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ファントムを対象としたこれまでの検討では、本法は弾性体評価用の計測ツールとして従来法と同等の精度を有することが明らかとなっている。しかしこれを生体計測に適用し、その弾性を評価しようとすると、実際には対象ごとに適切な加振方法が異なり、また評価に適した観察対象には限界が存在し、観察対象やその状態ごとに至適な観察条件は異なるため、これらの条件を適切に設定する必要性が生じる。これらはほとんどが未知であり、適切な条件の決定には相応の時間が必要である。 一方、現在の主たる評価対象である骨格筋は、組織としてのボリュームがあり、筋線維方向への伝搬を評価する限りにおいては評価が行いやすく、本法の良い対象である。反面、関節の伸展・屈曲の影響を受けやすいなど、可塑性の大きさは対象としての大きな欠点である。臨床応用に際してはあらかじめ伸展・屈曲の影響について評価し、状況に応じて必要な対策を講じる必要が出てくる。また体表臓器を、その浅部の体表面に押し当てたプローブで観察しながら計測・評価を行う本法では、観察時に対象組織に加わる圧迫(precompression)の影響が無視できず、正確な評価のためには考慮が必要で、状況によっては対策も必要となる。 これらの影響はほとんどが未知であることから、本年度の研究はその把握と必要な対策の模索に充てたが、ほぼ手探り状態の検討となったため、完了までに想定外の時間を要し、研究の遅れにつながった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの基礎的検討により、本法を骨格筋について臨床応用するための評価手法が確立できたことから、今後は臨床例の各種疾患について、診断や治療効果判定における本法の有用性について検討を進めていく方針である。 現在、すでに各種疾患に伴う筋拘縮を対象とした臨床的検討を開始しており、拘縮そのものの診断能や、原因の鑑別、各種治療による治療効果の判定における有用性について検討を進めている。 同時に今後は、せん断波の伝搬速度計測値だけでなく、当初の予定通り、伝搬状態の空間的プロファイルを用いた新たな組織弾性評価法についても検討を進める予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床的検討の開始が今年度後半となり、次年度まで研究期間を延長せざるを得なくなるなど、研究の進捗が当初の計画より大幅に遅れたため、次年度使用額が生じた。 次年度は臨床的検討が進むことで成果発表の機会も増大するため、翌年度分として請求した助成金と合わせ、増加する旅費に充てる予定である。 また、次年度はこれまでの検討とは性質の異なる、せん断波伝搬の空間的プロファイルによる組織弾性評価法についても検討を進める予定であり、装置の開発に伴う大幅な支出増加が見込まれる。翌年度分として請求した助成金と合わせ、これにも充てる必要がある。
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