本研究課題は、医療分野における交流磁場の有効利用に関する検討を目的の一つとしている。がん治療の主な治療法の一つに抗がん剤を用いた化学療法がある。これに交流磁場を併用することで抗がん剤の薬理作用つまり殺細胞効果を増強させることが可能であれば、治療効果を維持しながら患者さんへの投薬量を減量することが出来るため、結果的に抗がん剤に起因する副作用を抑えることが期待できるため、安全性が高く苦痛の少ない治療を提供出来ることになる。 これまでにヒト肺がん由来培養細胞を用いて交流磁場併用による殺細胞効果増強を確認した。またヒト正常気管支由来細胞を用いて同様の検討を行い、上記がん細胞を用いた検討と比較して殺細胞効果に有意な違いを認めない結果を得た。 最終年度は、培養細胞に交流磁場を印加することにより観察される殺細胞効果の増強について、そのメカニズムを探るべく解析を行った。交流磁場の印加のみでは培養細胞に対し殺細胞効果を示さない。培養液中に抗がん剤を添加し、かつ交流磁場を印加することで殺細胞効果は増強される。このことより交流磁場の印加が抗がん剤の細胞内流入量に変化を与えている可能性を考え、細胞内抗がん剤量を直接定量することを試みた。培養液中にシスプラチンを添加し、交流磁場印加を併用して培養した群および印加しない群における細胞内シスプラチン量を、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて測定した。今回得られた結果はメカニズムを説明する手がかりとして有用なものであった。
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