研究課題/領域番号 |
16K01425
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
大橋 篤 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 准教授 (30310585)
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研究分担者 |
中井 滋 藤田保健衛生大学, 医学部, 講師 (20345896)
長谷川 みどり 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (40298518)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腹水濃縮再静注療法 / 炎症性サイトカイン / 吸着療法 / 異化抑制 |
研究実績の概要 |
難治性腹水貯留症に対する腹水濃縮再静注療法(CART)は自己蛋白を濃縮精製し再静注する有効な治療法である反面、腹水中の炎症性サイトカインを濃縮し炎症を惹起させることが指摘される。卵巣癌由来の悪性腹水症の腹水検体のサイトカインを測定した結果IL-6の高値症例が多くみられた。IL-6は炎症の惹起やタンパク合成抑制作用があり、悪液質や異化を促進させる。そこで、血液浄化療法で使用する吸着ディバイスによる腹水中サイトカインの吸着効果を検討した。その結果、IL-6を高率に吸着する吸着体を確認した。そこで、肝癌細胞のHEPG2株を用いた添加実験を行い、吸着処理の効果を細胞の炎症に対する遺伝子発現を定量RT/PCR法で確認したところ、急性相反応蛋白である血清アミロイドA(SAA)の発現抑制を確認した。 次に、CARTの対象は末期癌症例が多く、悪液質とそれに伴い異化亢進が顕著である。癌の骨転移症例はTGFβなどサイトカインを分泌し、筋肉異化を促進することが知られている。そこで、この吸着ディバイスはTGFβを吸着する可能性があるため、ヒト骨格筋細胞株(SkMC)を細胞誘導し筋間細胞を作成して吸着腹水の添加培養実験を試みた。調査対象とした遺伝子群は骨格筋が融解される際に発現するはMuRF1とMAFbxとし、無吸着腹水を対称として定量RT/PCR法で発現倍率を比較したところ、吸着処理した腹水を添加したSkMCのMuRF1とMAFbxは低下傾向を示した。したがって、CART工程の際、吸着を追加すれば、腹水再静注後の炎症反応を軽減させると同時に筋肉異化を抑制出来る可能がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度はCART症例の腹水中のアルブミンの還元型の割合た高め且つ安定化させる方法を確立し特許出願した。平成29年度はCART腹水中の炎症性サイトカイン除去の検討を行い、血液浄化用吸着ディバイスで腹水中のIL-6を除去できる事を確認し、その効果を細胞へレベルで検証するため、ヒト肝癌細胞HEPG2株およびヒト骨格筋細胞株(SkMC)を用いた添加実験を試み、急性相反応蛋白SAAと骨格筋が融解される際に発現するMuRF1の発現抑制効果を確認した。しかし、吸着処理は非特異的なため、抗癌作用性物質を吸着し、逆に癌細胞の増殖を促進させる可能性が考えられるため、追加の検証が必要である。また、平成29年度には携行型腹水濾過器の試作にとりかかる予定であったが、灌流用ポンプに電動モーターを組み込む事は非実用的であり、安全かつ簡便な操作ができるような駆動方式を検討することにしたため、当初よりも若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
炎症性サイトカインIL-6はアルブミンの合成を抑制するとの報告もある。そこで、先ず、腹水のIL-6を吸着する吸着体のアルブミン合成促進効果を定量RT/PCRで検討する。一方、ヘキサデシル基吸着体の吸着様式は非特異的であるため、吸着体が逆に癌細胞の増殖を抑制する有益な成分を除去しているかもしれない。そこで、HEPG2株を用いた添加実験で吸着体の細胞周期関連遺伝子の発現解析についても検証し、得られた成績を論文にまとめ欧文誌に投稿する。また、科研費の最終年度のため、腹水濾過濃縮装置に本吸着体を組み込んだ携行式のディバイスを目指すため、安全性と実用性を兼ね備えた灌流システムを想定し圧力損失や処理能力の検討を行い、最良の腹水精製条件を確立させ、除去ディバイスのミニモジュールを試作し特許出願を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2017年度は、携帯型腹水濾過吸着器の試作に際し、腹水の灌流の原動力を当初の電気駆動方式から圧力制御へ変更することとし、圧力制御ディバイスの予算を2018年度に繰り越した。 (使用計画) 圧力制御ディバイスの試作および圧力損失測定などに費用の一部を充てる。また、昨年度から研究に取り掛かった細胞培養による腹水吸着の効果を分子生物学的に再検証する費用に充てる。
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