本研究課題の期間中において,まず,ヒトの榛骨を内部の海綿骨までを含みながら実サイズで再現する高解像度X線CT画像を撮影し,この画像から作成した3次元モデルを用いて超音波伝搬シミュレーションの基本となるモデルを作成した。加えて,この大規模モデルのシミュレーションを現実的な時間内でおこなうため,自作シミュレーションコードの最適化などを施すことによって演算高速化を実現した。 次に,このモデルよりは小規模なモデルについて粘弾性FDTD法(組織の緩和現象による伝搬減衰を考慮したシミュレーション)による検討を進め,粘性が骨粗鬆症診断に用いられている波形の特徴量に与える影響についての興味深い挙動を発見した。これにらより,現在の超音波骨粗鬆症診断装置の診断精度を高めるための多くの知見が得られている。 加えて,これらの超音波測定技術が人体に刺激を与えた場合に人体内を伝搬する振動(超音波)波形の解析に応用できる可能性が出てきたため,人体表面および内部を伝搬する振動波形の測定および解析を並行して進め,特定の運動時に体内や体表面に触れている物体中を伝搬する音波波形について興味深い挙動を発見し,国際学会および国内学会で報告をおこなった。 さらに,最終年度には,それまでの取り組みで培ったシミュレーション技術を活用し,非常に多くのパターンでシミュレーションをおこなうことによって多数の波形を生成し,その波形から機械学習によって伝搬経路の推定をおこなうシステムを構築した。このシステムが非常に高い精度で動作することを確認したため,この成果については国際学会で発表をおこなったことに加え,さらに検討を進めた内容について論文投稿の準備を進めているところである。 以上のように,本研究課題に取り組んだ成果は当初の予定を超えた領域にまで広がっており,非常に意義深い多数の知見が得られたと考えている。
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