生体組織の音速は組織変性と相関があり、疾病診断等のために高精細な音速分布の画像化が望まれている。これまで、MRIから得られる伝搬距離情報と超音波の伝搬時間情報を組み合わせ、生体内の音速を非侵襲で測定するマルチモダリティ法の検討を進めてきた。しかし従来法では、厚さ方向での平均音速の算出に留まり、組織内の音速分布を可視化することができなかった。そこで本研究では従来法を発展させ、組織内の音速分布を画像化するための技術開発を行う。MRI装置内で使用できる超音波振動子の製作と信号処理法等の開発を行い、生体模擬材料等を用いて測定精度や再現性を評価し、本技術の実現可能性を明らかにする。 平成30年度は、平成29年度までに製作した超音波アレイ振動子を用いて、実データによる音速計測の検討を行った。MRI撮像中に超音波アレイ振動子を駆動するためのスイッチング回路を自作し、全ての圧電素子からエコーが得られることを確認した。また、MRIの受信コイルと超音波アレイ振動子を一体化した撮像機構を準備し、その内部に生体模擬材料等の撮像対象を収納する容器を置いて超音波アレイ振動子を接触させ、MRI撮像と超音波撮像が同時に行える測定システムを構築した。容器内に周囲媒質として散乱体を含む重量濃度2%の寒天溶液を流し込んで固化させ、その中央に音速が異なる内包媒質として重量濃度20%のグリセリンをさらに混ぜて固化させたファントムを作製して撮像を行った。MRIのk-spaceデータと超音波アレイ振動子のエコーデータを同時に取得して音速測定のアルゴリズムに適用した結果、周囲媒質と内包媒質の音速の差異が妥当に識別された。一方、パルス透過法により別に測定された参照音速(真の音速)との比較では、精度面で改善の余地が見られた。しかしながら音速の差異が空間的に識別できたことから、本技術の実現可能性が示された。
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