研究課題/領域番号 |
16K01433
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
中沢 一雄 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 非常勤研究員 (50198058)
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研究分担者 |
池田 隆徳 東邦大学, 医学部, 教授 (80256734)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (80396259)
稲田 慎 姫路獨協大学, 医療保健学部, 准教授 (50349792)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バーチャル心臓 / 心電図 / 不整脈 |
研究実績の概要 |
特発性の不整脈(期外収縮・頻拍など)の発生部位を同定し、カテーテル焼灼術の時間短縮や焼灼成功率の向上を目指すため、まず健常者およびペースメーカが埋め込まれた患者の12誘導心電図データの収集を行い、ベクトル心電図への変換に基づいて、その特徴の解析を行った。すなわち、12誘導心電図からベクトル心電図への変換を行うことによって、健常者と患者の区別、さらにペースメーカの埋め込み位置について、我々の提案するベクトル心電図上の最大QRSループや最大Tループの特徴について調べた。結果として、健常者と患者の区別が可能であること、また、ペースメーカのリードの埋め込み位置についても、右室流出路と心先部の区別が可能であることが示唆された。さらに、12誘導心電図のP波の部分についても解析を行ったところ、ベクトル心電図上の最大Pループの特徴からは、自発興奮と右心耳にリードのある患者あるいは右房後壁にリードのある患者を明確に区別することはできなかった。実際、12誘導心電図のP波の振幅は微少であり、患者データの症例数が十分でないことが窺われた。しかし、P波には2つの成分があり、第一成分が右房由来、第二成分が左房由来であることを示唆する結果を得るに至った。 一方、スーパーコンピュータ上のバーチャル心臓を用いた興奮伝播シミュレーションは、構成する心室細胞モデルを新しいモデルに更新し、バーチャル心臓の心室の任意の部位において期外収縮を発生させ疑似心電図が計算可能であることを確認した。しかし、まだ正常心電図の細部の特徴が再現できないことなどから、予備的な結果を得るに留まっており、バーチャル心臓による本格的な期外収縮症例データベースの作成は行っていない。 その他、関連する研究として、心電図からの突然死のリスク評価についての検討なども行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画に対し、いくつか進捗の遅れている部分がある。1)まず、臨床の心電図データの収集・処理が思ったようには進まなかったことである。実際、適正な患者を選択しても、患者データの取得に際しては手続き上の問題も多く、また許可が得られてからも、特に古いデータは形式も異なりコンピュータ処理するためには追加加工する必要性やデータに抜けが生じることなどがあった。しかしながら、1年目においてデータ処理時間の見通しが得られ、手順をほぼ確立することができたので、2年目以降は十分に遅延を回復することができるものと思われる。基本的に1年目においては症例が少なかったため、明確な結果を示すことができなかったところがある。2)次に、バーチャル心臓を構成する心室細胞モデルを新しいモデルに更新したことから、まだ正常心電図の細部の特徴が十分に再現できないことが挙げられる。新しいモデルは新しい知見が組み込まれ複雑化した分、計算の負荷が高まり、バーチャル心臓への刺激伝導系や心室格差などの導入やチューニングに手間取っている。結果として、本格的な期外収縮症例データベースの作成には至っていない。 全体的な反省としては、研究実施計画の1年目の課題を多く見積もりすぎたところがある。この研究では、先行して予備研究をスタートさせていたこともあり、当初はスムーズな進捗を予想していた。しかし、患者データの取得手続きやデータ処理、バーチャル心臓のモデル更新のところで出遅れた形となった。患者データの収集に関して医学系研究者(医師)を、バーチャル心臓のモデル更新については工学系研究者を連携研究者として追加し、強化を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、進捗の遅れていた部分に関して、新たな人材を追加登用する。臨床データの収集に関して、井上優子博士(国立循環器病研究センター心臓血管内科・医師)を連携研究者として追加する。井上博士は同センターにおける心磁図計測の専門家でもあり、心磁図データとの連係も担当する予定である。一方、バーチャル心臓のモデル更新について、工学系研究者として富井直輝博士(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター・助教)を連携研究者として追加する。富井博士は不整脈現象の計測および可視化が専門であるが、モデル・シミュレーションやAIにも造詣が深く、期外収縮起源同定アルゴリズム作成の部分にも貢献が期待される。AIについては当初の研究計画にはなかったものであるが、その導入の可能性を含め、富井博士の課題とする方針である。さらにデータ処理についても、山本剛室長(国立循環器病研究センター医療情報部)を連携研究者に追加し、いっそうの強化を図る。 平成29年度は、ともかく臨床データの数を増やして、1)期外収縮起源同定アルゴリズムの作成・検証。2)バーチャル心臓による心電現象の計算と期外収縮症例データベースの作成、3)心磁図データとの連係などを行う予定である。ちなみに、平成30年度においては、研究成果をPCのアプリケーションとして実装することを目標にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
基本的には、当初計画に対し、臨床の心電図データの収集・処理が思ったようには進まなかったことによる。実際、100症例程度を想定していたが、結果として30症例程度に留まった。患者データの取得に際しては手続き上の問題やデータ処理上の問題もあった。さらに、平 成28年度より中沢は非常勤研究員となったため、部屋を移動し研究のためのスペースも減少した。移動やスペース的に新しい物品を確保しにくい状況があった。特に中沢の物品費が少ないのは、主に、この理由によるものである。所属施設の都合もあり、年度当初に研究スペースの減少まで想定することは困難であった。
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次年度使用額の使用計画 |
約10万円の未使用が発生したため、研究費の平成28年度の消費額と平成29年度の総額はほぼ等しくなった。結果的には、平成29年度も 平成28年度と同様の使用計画で問題ないかもしれない。平成30年度において、研究成果をPCのアプリケーションとして実装することを目標にしているため、データ処理の向上も含め、平成29年度において新しいPCの購入を検討する。
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