研究課題/領域番号 |
16K01444
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
迫田 大輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 研究員 (40588670)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 可視・近赤外分光 / 非侵襲イメージング / 人工臓器 / 循環器疾患 / 血液適合性 |
研究実績の概要 |
遠心血液ポンプ等の体外補助循環デバイスや血管内の流速イメージング装置を開発する。イメージング深度を複数の波長を使用することで変化させ、各波長イメージング結果を組合せることで3次元流速情報を獲得し、実際に血液を用いて循環器デバイスの血液適合性や冠動脈バイパス吻合部の定量評価を達成することが目的である。 本年度では最大8波長の高速フィルタチェンジャーと高速カメラからによる高速多波長イメージング装置を設計、試作を達成した。試作装置の基礎実験を行うための、一様せん断流れ場イメージング光学系および当研究室で開発中の動圧浮上遠心血液ポンプ内イメージング光学系の構築を達成した。特に試作装置による遠心血液ポンプ内イメージングについて、ポンプ全域のマクロイメージングから細胞レベルのミクロイメージングまでを達成した。細胞レベル血流イメージングについて、ウシ、ブタ、ウシ等の種々の動物血液を用いて、ポンプ動圧軸受部の血液適合性評価が可能かを実験していたが、ヒト全血を使用した際に生理的ヘマトクリット範囲で隙間20µmの軸受部で血球細胞と血漿が分離するプラズマスキミング現象があることがわかった。これは血液ポンプ内で最も細胞破壊が起こる高せん断軸受部に血球細胞が入り込まず、低せん断流路に誘導できることを意味し、これを応用すれば革新的血液適合性が獲得できる可能性が考えられた。また、試作装置によるin vitro抗血栓試験評価実験条件の確立のため、市販遠心ポンプを用いたin vitro血栓試験を行い、動物実験と類似する血液凝固能条件を見出した。これら実験準備を基に、次年度は開発した高速多波長イメージング装置を用いて実際に血液適合性評価を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速多波長イメージング装置のハードウェア開発については当初の予定通り進み、また試作装置の実験にも着手し、遠心血液ポンプ血液適合性評価において、血球細胞と血漿が分離するプラズマスキミング現象を発見した。この現象の存在は人工臓器工学分野において以前から提唱されていたが、実際にその存在を初めて証明でき、それにより当初の計画以上の成果があった。一方で、一様せん断流れ場イメージング光学系の開発は、当初の予定より開発に難渋した。開発はできたが、そのためソフトウェア開発の進展はやや遅れている。予定以上の進展点とやや遅れている点が混在しているが、次年度予定の実験を行う状況は整っているため、総合して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在遅れているソフトウェア開発を集中的に行う。本研究は、高速多波長イメージング装置の開発と、それを使用したこれまでに無い循環器デバイス血液適合性評価実験があり、特に後者の血液適合性評価については、当初の期待を上回る成果を得ている。そこで、多波長3次元血流イメージング開発を予定スケジュールを変更しない範囲で、細胞レベル血流イメージングによる血液適合性評価研究にも着手する。 本研究は、実際に血液使用下での循環器系デバイス内血流の可視化を可能にすることが研究の最大意義であり、そのためin vitroでヒト全血を使用した実験及びウシまたはブタを用いた大型動物実験を計画している。現在までの研究で、各動物種の赤血球体積が大きく異なることに起因して血液の光学特性が大きく異なることがわかった。そのため、大型動物実験は循環器デバイスの使用状況は臨床状況と最も近いが、光学的観点からはヒト全血を使用した方が本装置の臨床使用を目指すことを考えると重要度が高いと判断され、動物実験は実施予定であるが、in vitroヒト全血を使用した実験の方をより優先的に実行していくべきと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
高速多波長イメージング装置ハードウェア開発が予定より低価格で達成できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ヒト血液を使用したin vitro血液適合性評価実験をより積極的に行う予定であるため、そのための血液試薬購入に使用する予定。
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