研究課題
平成28年度は申請者が開発した神経心理検査であるSARS(Test for Sustained Attention and Response Suppression)が特発性正常圧水頭症(iNPH)における反応抑制と持続性注意を適切に評価できるかどうか,かつ従来の神経心理検査よりもSARSの成績再現性が高いかどうか,更にiNPHとアルツハイマー病(AD)を最も鑑別し得るかどうかを検証した.平成28年4月から現在までみやぎ県南中核病院を受診するiNPH患者から12人,AD患者から14人本研究に参加した.iNPH患者に施行されたSARSの結果(反応抑制と持続性注意の指標)は,両者を評価する従来の神経心理検査(Stroop Color-Word TestとContinuous Performance Test)の成績と有意に相関した.また,SARSはMini-Mental State Examination(MMSE)やFrontal Assessment Battery(FAB)などiNPH治療ガイドラインで推奨されている神経心理検査と同等の成績再現性を有していた.更に,SARSはMMSEやFABなどの従来の神経心理検査よりiNPH患者とAD患者をより鑑別することができたが,申請者が以前開発したCounting-backward Test(CBT)と比較すると,その鑑別能力に有意差はなかった.AD患者の中にはSARSの施行中に教示内容を忘れてしまうケースが多々あり,記憶障害の重症度に比例して反応抑制の障害を過大評価してしまう傾向が認められた.SARSの鑑別能力がCBTを超えることがなかった理由の一つと考えられた.
3: やや遅れている
研究実施計画では平成28年度にiNPH患者,AD患者から各20人の参加を予定していたが,iNPH患者,AD患者共に神経画像所見上脳血管障害を合併していたケースが多々認められたため,予定より少ない参加者数となった.また,成績再現性に関する評価においては,従来の神経心理検査との比較のため.SARSだけではなく他の多くの神経心理検査を2回施行することになるため,2回目の検査を拒否するケースも認められた.2回目の検査を施行できなかったケースはSARSの成績再現性,鑑別能力に関する統計解析から除外しているため,予定より少ない参加者となった.
平成28年度におけるSARSの有用性に関する検討については,被験者数が十分とはいえないものの,申請者が以前に作成したCBTを除き,従来の神経心理検査と比較して成績再現性の非劣性,鑑別能力の優越性を示す結果が得られている.平成29年度においても引き続きiNPH患者,AD患者から研究参加者を募り,SARSの有用性に関するデータを収集し続ける予定である.また,AD患者においてはSARSの反応抑制に関する指標が記憶障害の重症度に影響されることが判明したため,平成28年度に予定した被験者数に到達した以降は,教示方法や刺激呈示に改良を加えたSARSを使用して,平成28年度と同様の検討を継続する方針とした.
平成28年度は学会で発表することが望ましい研究成果が出ていなかったため,旅費を使用することがなかった.また平成28年度から研究実施施設において健常者の神経心理検査のデータと共に神経画像データを収集する予定であったが,データ収集施設(みやぎ県南中核病院)の倫理委員会において当初予定していた方法に問題があると指摘された.従って,平成28年度に使用予定であった健常被験者に対する謝金を使用することがなかった.
平成29年度は平成28年度までの研究成果を国際学会であるWorld congress of Neurology 2017 (京都)と Hydrocephalus 2017(神戸),国内学会である第19回日本正常圧水頭症学会(京都)で発表するため,旅費を使用する予定である.また,倫理委員会で指摘された健常者データの収集に関する問題点を是正し,再度同施設の倫理委員会で審議した結果,平成29年度からは健常者データの収集が可能となったため,謝金を使用する予定である.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件)
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