研究課題/領域番号 |
16K01447
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 重範 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (00596645)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 特発性正常圧水頭症 / 反応抑制 / 持続性注意 / 鑑別診断 |
研究実績の概要 |
平成29年度は特発性正常圧水頭症(iNPH)に対して申請者が開発した神経心理検査であるSARS(Test for Sustained Attention and Response Suppression)が,従来の神経心理検査であるMini-Mental State Examination(MMSE), Frontal Assessment Battery(FAB)と比較して脳脊髄液(CSF)シャント術後における認知機能の改善をより高い精度で予測し得るかどうかの検証を開始した.尚,この検証は研究開始当初より平成30年度に及ぶ予定となっている. 平成28年4月から現在までみやぎ県南中核病院を受診したiNPH患者から24人が本研究に参加した.そのうちCSFシャント術が施行された患者は10人であり,術後3か月の時点で症状の改善が得られた患者は7人であった.また,残る3人のうち1人に術後6ヶ月の時点で症状の改善が得られた.従って,現時点でのCSFシャント術の奏効率は80%であり,先行研究の報告と同等の手術成績が得られている.CSFシャント術後に症状の改善が認められなかった例が未だ不十分であり,現時点ではSARSを含めた神経心理検査における術後の予後予測能力を評価するのが困難であるが,本研究の遂行により平成30年度には検証が可能となる予定である. 尚,本研究に参加したiNPH患者において,現在のところ拡散テンソル画像(DTI)と安静時状態の機能的MRIデータを全例で得ることができた.同患者に施行されたSARSの結果から算出される反応抑制と持続性注意の障害度指標を用いて,大脳白質におけるどの損傷部位,もしくはネットワークが各々の障害に関連しているのかを平成30年度に検証する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画では平成29~30年度に特発性正常圧水頭症(iNPH)患者40人の参加を予定しており,現時点では24人と計画と同等の参加者を得てはいるが,合併症などの事情により脳脊髄液(CSF)シャント術に至った患者数が10人と少ない状況になっている.その理由として考えられるのは,みやぎ県南中核病院が担う医療圏は日本全体の平均より高齢化が先行しており,研究参加者の平均年齢が約80歳となっていることである.本研究の参加者においては,CSFシャント術の施行を妨げる合併症(腎機能障害や悪性腫瘍の合併など)の罹患率が高くなっている可能性がある.また,研究参加者のなかには,詳細な神経心理学的評価によりiNPHでは説明できない認知機能障害(レビー小体型認知症に多く認められる錯視反応やアルツハイマー病に認められる重度の健忘など)を呈していることが判明した例があり,それらの例ではCSFシャント術を施行しない方針になった.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度における本研究の参加者から脳脊髄液(CSF)シャント術に至った特発性正常圧水頭症(iNPH)例は10例であり,平成30年度が終了した時点で手術症例数が20例以上になるためには,研究参加者を平成29年度と同等,もしくはそれ以上に募る必要がある.iNPHに関する啓発活動の一つとして,みやぎ県南中核病院と連携している医療施設のスタッフを中心に院内勉強会への参加を募り,iNPHにおける臨床症候,神経画像の特徴に加え,本研究についも広報する予定である.みやぎ県南中核病院へのiNPH患者の紹介が増え,平成30年度における本研究の参加者数が平成29年度以上となることを期待する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度では研究代表者の研究成果を世界神経学会会議(XIII World Congress of Neurology)のみならず国際水頭症学会会議(Hydrocephalus 2017)においても発表したが,その際の参加費と旅費は別経費より支払われたため,計画より出費が少なくなった. また,平成29年度より研究実施施設における脳ドック受診者から本研究の健常被験者を募った.しかしながら,60歳以上であり,かつ神経学的所見,神経心理学的所見で正常と判断され,更に頭部MRI所見上異常がなかった被験者が少なかった.現在のところ謝金を支払うことになった被験者は5人であったが検査施行時期が平成29年度末であったため,2人の被験者の支払い時期が平成30年度になった.
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