平成30年度は特発性正常圧水頭症(iNPH)に対して申請者が開発した神経心理検査であるSARS(Test for Sustained Attention and Response Suppression)が,従来の神経心理検査と比較して脳脊髄液(CSF)シャント術後における認知機能の改善をより高い精度で予測し得るかどうかの検証を継続した. 平成28年4月から現在までみやぎ県南中核病院を受診したiNPH患者から38人が本研究に参加した.そのうちCSFシャント術が施行された患者は26人であり,術後3か月の時点で症状の改善が得られた患者は19人であった.また,残る6のうち1人に術後6ヶ月の時点で症状の改善が得られた.従って,現時点でのCSFシャント術の奏効率は約77%であり,先行研究の報告と同等の手術成績が得られている.昨年度と同様CSFシャント術後に症状の改善が認められなかった例が未だ不十分であり,現時点ではSARSを含めた神経心理検査における術後の予後予測能力を評価するのが未だ困難であるが,平成30年度以降も本研究を継続する予定であり,CSFシャントが奏功しなかった症例が10例に及んだ時点で検証を開始する予定である. 本研究に参加したiNPH患者において,拡散テンソル画像と安静時機能的MRIのデータを全例で得ることができた.同患者に施行されたSARSの結果から算出される反応抑制障害と持続性注意障害の指標を用いて,大脳白質におけるどの損傷部位,もしくはどの脳内ネットワークが各々の障害に関連しているのどうか検証したところ,反応抑制障害の指標は両側前頭前野の皮質下白質の損傷と関連し,Default mode networkにおける機能的結合性の低下と関連することが判明した.尚,SARSは学術論文としての研究報告が完了次第,PCソフトウェアとして一般公開する予定である.
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