研究課題/領域番号 |
16K01469
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牛場 潤一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00383985)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ブレイン・マシン・インターフェース / 誤差学習 / 運動学習 / 頭皮脳波 |
研究実績の概要 |
脳卒中片麻痺上肢の離把握動作を治療する「ブレイン・マシン・インターフェース・リハビリテーション(BMIリハ)」は、本研究の研究代表者らのグループによって障害脳の機能正常化を誘導し、これまでの医療では困難とされた症例においても一定の機能回復をもたらすことが可能であることを示してきた。しかしその背後で駆動している可塑的プロセスの実体については不明であった。そこで初年度である本28年度には、反復的なBMIリハ中の脳波反応から脳内学習プロセスをモデリングし、BMIリハプロセスが「運動スキル獲得」であることを示すことを目指した。具体的には、BMIリハタスクを反復的に実施している際、運動開始以前に頭頂部付近に認められる運動準備電位を検出して、BMI制御に用いられているフィードフォワードブロック(FF)の出力強度を推定したところ、BMI学習にともなう経日的なFF出力強度の上昇を認めた。フィードバックブロック(FB)の貢献度についても、運動企図後150ミリ秒以降のBMI制御軌道を分析することで調べたところ、こちらもBMI学習にともなう経日的な変調を認めた。以上のことから、BMIの動作結果を感覚フィードバックを通じて把握しながら、FF、FB双方の制御ブロックを機能的に適応させていると解釈された。これは通常の身体運動学習の機構と同様の基本構造であると考えられる。今後は検証例を増やすとともに、今回のようにFFとFB成分を電気生理学的に評価することの妥当性を示すコントロールスタディを計画する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳卒中片麻痺上肢の離把握動作を治療する「ブレイン・マシン・インターフェース・リハビリテーション(BMIリハ)」について、脳内で生じる可塑性の仕組みを明らかにする。本年度はまず、反復的なBMIリハ中の脳波反応から脳内学習プロセスをモデリングし、BMIリハプロセスが「運動スキル獲得」であることを示すための研究に着手した。 身体運動が発現してから150ミリ秒以内は、視覚や体性感覚からのフィードバック情報を受ける前の運動生成プロセスであることが知られている(Nat Neurosci 6:399-403 (2003))。そこで本年度は、BMIリハ中に画面指示に応じて手指運動企図をおこなっている際の頭皮脳波を取得し、指示後150ミリ秒以内の脳波変化から、BMI制御に必要なフィードフォワード成分(FF)を同定。さらに運動開始前に生じる運動準備電位の検出も併せて試み、その振幅からFF成分の強度を推定した。一方、150ミリ後からBMIタスク終了までの間におこなわれた脳波変化の修正プロセスは、視覚ならびに体性感覚を手掛かりとしたフィードバック効果(FB)と考えられるため、別途、学習曲線を描出し、FFの学習過程との比較をおこなった。その結果、1日1時間(約40試行)のBMIを3~5日間連続して実施することで段階的にFF強度は増加し、その頭皮上空間分布も運動皮質近傍に限局傾向にあることを認めた。FB効果についても同様に経日的上昇を認めたことから、BMIは通常の身体運動学習と類似した機構に基づいて学習されている可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は検証例を増やすとともに、今回のようにFFとFB成分を電気生理学的に評価することの妥当性を示すコントロールスタディを計画する。また、現在、別プロジェクトで脳卒中片麻痺上肢に対するBMIリハ介入の有効性検証を実施中であることから、本研究で有用性が示された本解析手法の応用可能性を併せて検討したい。 こうした学習機構のほかに、より非認知的な仕組みを通じて学習を進めることのできる強化学習のフレームでBMI学習プロセスが説明できるか検討をおこなう。すなわちBMIリハの最初期は、「随意的に脳波を変化させてBMIを操作する」というタスク自体が新奇なため、明確な操作ルールや学習ルールが脳内に備わっていないものと考えられる。このように、過去の経験や陳述的なルールを演繹できない身体運動であっても、試行錯誤のなかで与えられた報酬信号が適切な脳活動パターンを定着させ、その積み重ねの結果として技能の習熟が達成される。このように「報酬系を介した強化学習」は、ドーパミンを放出する基底核の活動をともなうことから、fMRIによって報酬量依存的な基底核活動を検出することで、その動員有無が判定できる(J Neurosci 33(5):2137-46 (2013))。そこで平成29年度は、fMRI-EEG同時計測系を構築してBMIリハ中の基底核活動を計測し、BMIリハにおける報酬系強化学習の関与を明らかにする。既に今年度、実験環境の構築を準備段階として進めており、fMRIの変動磁場によって混入する脳波上ノイズを除去することに成功している。今後は予定通り本計画を進めていくことが可能と考えている。
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