本研究では,歩行時の環境状況の把握に必要な視覚情報と高齢者が早期から低下する前頭葉機能との関連を調査し,高齢者の転倒発生機序の解明とそれを踏まえた新たな転倒予防策について検討した. これまでに,若年・高齢健常女性を対象にデータ収集を行い,それぞれに3つの結果を得た.1,二重課題歩行(計算課題しながらのその場足踏み歩行)時の眼球の動きは,単一課題歩行(その場足踏み歩行)時および対照課題歩行(意識して前方を見るよう指示した際のその場足踏み歩行)時と比較して,両者とも大きかった.2,二重課題歩行時の前頭葉の血流量は,単一課題歩行時と比較して,若年健常女性では少なく,高齢健常女性では多かった.3,二重課題歩行時の歩容は,単一課題歩行時と比較して,若年健常女性では違いはなく,高齢健常女性では足踏みの高さが小さかった.また,実歩行においても足踏み歩行と同様の結果を確認した.以上のことから,考え事をしながらの歩行では,考え事に注意が向き,視線は大きく動くものの視覚探索をしているわけではなく,障害物の発見が遅れること,考え事に注意が向き,歩き方にも影響を及ぼし、足元の障害物につまずきやすくなることが,高齢者の転倒発生機序のひとつと考えられた.そのため,周辺情報を瞬時かつ正確に捉え,“つまずき”に対して確実に転倒回避できる「ステップ動作」の獲得が必要といえる.今後,瞬時かつ正確な視覚情報を得るためのビジョントレーニングについて検討していく. 加えて,脳卒中による高次脳機能障害をきたした症例についてもデータを収集し,視線の動きの特徴から転倒予防策を検討した. 今年度は,実歩行時で得られたデータを分析し学会発表するとともに,これまでに得られた結果を用いて論文の作成を行った.
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