研究実績の概要 |
[研究目的] 頚髄損傷後の嚥下障害の報告は近年散見されてきているが、そのメカニズムは未だ十分に分かっておらず、外傷による軟部組織の構造上の変化に対して検討した報告は無い。本研究の目的は、急性期頚髄損傷における嚥下障害の重症度に影響する因子を検討し、嚥下障害発生のメカニズムを分析することである。 [方法] 受傷後2週間以内に入院した急性期外傷性頚髄損傷を前向きに検討した。受傷後2週の時点で、嚥下障害は臨床重症度分類(Dysphagia severity scale; DSS)を用いて7段階で評価した。DSSが4以下の誤嚥がある患者には嚥下内視鏡もしくは嚥下造影を行い、嚥下障害の詳細な評価を行った。受傷による軟部組織障害を評価するためにCTにて後咽頭腔幅(C2高位)と気管後腔幅(C6高位)を計測した。また年齢・気管切開の有無・骨棘による後咽頭圧迫の有無・手術の有無・ASIA motor score・MRIによる受傷高位を評価した。各々の因子に対して2週の時点でのDSSを目的変数とする重回帰分析を行った。また受傷前、受傷後2週1か月,2か月,3か月でのDSSの変化も評価した。 [結果] 2週間以内に入院した急性期頚髄損傷は161例であった。そのうち麻痺が軽微なため早期退院した9例および脳卒中など全身状態が増悪した16例を除いた、136例を対象とした。多変量解析において、DSSに有意に影響する因子は、motor score・気管切開・年齢・後咽頭腔幅であった(p<0.05)。また嚥下障害は受傷後増悪し、その後徐々に改善していた。 [結語] 急性期外傷性頚髄損傷後の嚥下障害に影響する因子を前向きに検討した。嚥下障害に有意に影響する因子としては、重篤な麻痺・気管切開・高齢・後咽頭の腫脹であった。つまり後咽頭の腫脹による形態的な変化も嚥下障害の発生機序に寄与していた。
|