目的:オレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント、メラトニン受容体作動薬のラメルテオン、汎用される非ベンゾジアゼピン(以下BZ)系睡眠薬のゾルピデムに対して、高齢者の運動・認知機能からその残余効果を検証する。 方法:高齢健常者14名を対象とし、スボレキサント(ベルソムラ、MSD社)10mg、ラメルテオン(ロゼレム、武田)4mg、ゾルピデム(マイスリー、アステラス社)5 mgの一回服用における運動機能と認知機能を二重盲ランダム比較試験にてプラセボと比較した。対象者は、1週間毎に睡眠導入剤かプラセボのいずれかを就寝時(23時)に服用し、就寝した。翌日4時に起床させ、客観的評価や主観的評価をした後再び6時まで就寝させた。就寝中は簡易脳波計を装着し、客観的評価は服薬前後から翌日まで5回、主観的評価は7回実施した。 結果:実験中、不調を訴える対象者はいなかった。簡易脳波計による睡眠指標について、薬(4条件)と時間の主効果および交互作用を検討したところ、(1)レム睡眠時間において薬の主効果が見られた(p<0.01)。多重比較(Bonferroni)の結果、スボレキサントのREM睡眠時間は有意にゾルピデムのそれよりも長かった。また、(2)第3ステージの長さについても薬の主効果が認められた(p<0.05)。(3)重心動揺テストの閉眼において薬の主効果(p=0.012)が認められた。多重比較を行った結果、ゾルピデムは、スボレキサントやラメルテオンに対して有意に動揺が小さかった。 結論:オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬は、従来の睡眠導入剤で懸案だった筋弛緩作用を伴わないため、高齢者の転倒を予防できる可能性が期待されている。本結果からは、ゾルピデム、スボレキサント、ラメルテオン3種の睡眠薬について、顕著な副作用は認められなかった。また、スボレキサントはREM睡眠を増加させた。
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