研究課題/領域番号 |
16K01498
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
十枝 はるか 群馬大学, 大学院保健学研究科, 講師 (30380835)
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研究期間 (年度) |
2017-02-23 – 2022-03-31
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キーワード | 作業療法 / 発達障害 / 早期支援 / 保育士 |
研究実績の概要 |
平成29年度の対象者は、保育士3名となった。計画より少人数となったが、市の業務として参加できる手続きを踏まえたので、対象者にとっては職場や上司からも理解されての参加となり、心理的負担がより少なくなったことと思われる。平成29年度は全8回のペアレント・トレーニング保育士版(以下、ティーチャー・トレーニング)短縮版を実施し、対象者からは終了時に「自分の観方、接し方を変えるだけで以前よりも私が楽になり、子どもが可愛いと思えるようになった」、「ほめ方を学ぶことによって、子どもとの関係がより近いものになった」、「本来の子どもの姿をありのままに受け止め、そして一緒に遊ぶことにより子どもの気持ちに寄りそえることを学び、そうすることでイライラしていた自分をけることができた」といった感想が聞かれた。子どもの行動改善はサンプル数が少ないため有意な変化はとらえにくいが、子どもの行動変化の前に保育士が上記のように変わったことは意義深いと考える。 なぜなら、保育士が子どもに対して発達障害の可能性があるのではないかといった「気になる」という気づきの段階では、どのように対応したらよいのか分からず、また様々な対応を試みてもうまくいかない等の悩みやストレスが伴うと思われる。そのような状況では育士自身がまず楽になり、子どもを可愛いと思えるようになったことで、支援を提供する者がより安定した心身状態となった。そのことにより、発達障害児を薬物療法といった医療の対象となる前に、適切な保育・教育環境による発達支援を提供することができる地域社会の構築をする前提が確立できたのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5年にわたる本研究計画をB市に受け入れて頂き、平成29年度10月より実施している。研究計画書では、A市(協力体制として前橋市こども課)と記載したが、A市において研究者は、別の研究としてすでに2回ペアレント・トレーニング保育士版(以下、ティーチャー・トレーニング)を実施済みであったため、A市より同県内のB市での実施を歓迎された。平成29年度2カ所の保育所より3名の保育士が、ティーチャー・トレーニングに参加した。A市より小規模のB市での開催となり、業務時間内での多数の保育士が本務から離れることを現場が難しいと判断されての3名となった。研究計画書に記載した効果測定に用いる質問紙「Teacher Report Form(TRF)」は、対象年齢が5歳以上であったが、その後1歳半から5歳までの子どもを対象としたチェックリストの日本語版も標準化され使用できるようになったため、本研究からTRFに代わり「Caregiver-Teacher Report Form(C-TRF)」を使用した。そのことにより、対象者が年長児(5歳児)を担当する保育士だけでなく、どの学年を担当する保育士であっても、本研究の対象とすることができた。計画段階では更なる客観的な効果を示すためにイベントレコーダー・行動コーディングシステムを使用する予定だったが、保育所からは在所児をビデオカメラにて撮影することは抵抗を示され、実現できなかった。より客観的に効果は示せないが、C-TRFの使用により対象年齢の幅が広がったことで、どの年齢においても効果があることが示される可能性のある研究となった。
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今後の研究の推進方策 |
対象者数が当初の計画より少なくなったが、毎年確実に3名の保育士が作業療法士によるティーチャー・トレーニングを受け、そしてその保育士を2年かけてインストラクターとして養成すること、3年後にはその保育士が他の保育士を対象としたティーチャー・トレーニングを実施できることが、市の業務として認めてもらっている。毎年少人数ではあるが、本研究実施期間5年に確実6名がインストラクターとなり、最終年度には保育士によるティーチャー・トレーニングが6回実施されることになるので、普及という観点ではかなり前進することになる。本研究に参加することを市の業務として認めてもらえることになったので、対象者とってはやりがいにつながるのではないかと考えられる。 今後も少人数ながらも計画通り進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
より客観的な効果測定のために、イベントレコーダー・行動コーディングシステムを購入したが、当初よりも低価での購入することができた。しかしながら、直前になって対象者の所属する保育所でのビデオ撮影することができなくなり、ビデオカメラと三脚の購入をする必要がなくなった。以上の理由から、次年度使用額が生じた。 次年度も引き続き先駆的実践者(えじそんくらぶ奈良『ポップコーン』代表 楠本 伸枝)によるペアレント・トレーニングの見学と研究者への技術指導や相談のために、複数回の奈良―群馬間の交通費と宿泊費が必要になる。さらに、予備研究の対象者に対する謝金やその他の雑費が必要である。
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