平成29年の前半までに、日本人に親しみのある嗅素としてUSIT-J(Japanese Version of the University of Pennsylvania Smell Identification Test)の40種類の嗅素に着目し、高齢者の各嗅素に対する回想経験の有無、回想経験と他の要因(年齢や性別、嗅覚機能)との関連について検討し、回想につながる嗅素を明らかにした。 この結果を基に、平成29年の後半から介入の準備を行い、平成30年度には、地域在住高齢者を対象に、嗅覚刺激を用いた回想法の精神的健康および認知機能に対する効果の検討を行った。介入群では、匂い刺激として嗅覚カードを回想の手がかりとした回想法を毎週1回(40分)の割合で12回実施した。対照群では,介入群と同じ12種類の嗅素が印字された言語カードを用いて回想法を同様に実施した。評価は、精神的健康状態を測定するためにGeriatric Depression Scale-15 (GDS-15)、認知機能を測定するFive Cognitive Test(Cued recall testとCharacter position referencing testの2項目)を用い、ベースラインと介入終了後の2時点で行った。反復測定による共分散分析の結果、GDS-15において有意な交互作用が認められた。 以上のことから、嗅覚刺激として、簡便に準備可能な嗅覚カードを用いた回想法は高齢者の精神的健康の維持に有効であることを示すことができた。高齢者がいつでも、どこでも参加できる実効性のあるプログラムが必要とされており、本結果は認知症のリスクファクターと言われる抑うつ予防のための取り組みとして、心理社会的側面に対する回想法実践に有意義な示唆を与えていると考えられる。
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