研究課題/領域番号 |
16K01534
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉田 典大 東北大学, 工学研究科, 准教授 (90396458)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 足漕ぎ車いす / 下肢運動モデル / 機械的インピーダンス / 追体験システム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,片麻痺患者でも使用可能な足漕ぎ車いすを対象として,使用者によって負担が少なく,かつ必要最小限の筋力でより大きな駆動力を生じさせることができる構造を明らかにすることである. 前年度に構築した3次元下肢運動モデルの解析を進めた結果,本モデルで得られる関節トルクのパターンが患者の麻痺の度合いによって異なることを発見した.また,本年度は3次元下肢運動モデルによる解析に加えて,機械的インピーダンスを用いた解析についても基礎的検討を行った.本手法では,手や足の動きに外部から摂動を与えた際の軌跡を解析することでヒトの関節における剛性や粘性を推定し,被験者がペダリング動作を行う際の力学的な特性をより詳しく調べることが可能である.そこで,ペダリング運動から機械的インピーダンスを求めた先行研究に基づき,足漕ぎ車いす操作時の機械的インピーダンスを安定的に求めるための計測システムとアルゴリズムの開発を行った. これらの解析手法の開発と並行して,足漕ぎ車いす使用者が外で行った実走行を,室内の安全な環境で体験できる追体験システムの開発を行った.本システムでは,事前に走行した場所で記録した視覚情報と力覚情報を統合し,これをバーチャルリアリティの技術を用いて提示することで,実際の外出が難しい被験者に屋外走行を体験してもらうことが可能となる.本研究では,追体験システムで再現される様々な環境を走行した際のデータを解析することで,視覚情報を含めた外的環境が機械的インピーダンスに与える影響について調べることを試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までは,主に3次元下肢運動モデルを用いた関節トルクパターンで評価を行っていたが,本年度はこれに加えて機械的インピーダンスの概念を取り入れた.このことにより,足漕ぎ車いす駆動時の運動特性を異なる2つの視点から評価することが可能となり,本課題の目的である「効率的なペダリング動作を誘発する足漕ぎ車いす」の構造条件について,より探索を行いやすくなった. さらに,スムーズな足漕ぎ車いす走行が難しい被験者に対しても,安全な走行と計測とを行えるバーチャルリアリティシステムを構築した.これにより,障害のある被験者を対象とした場合であっても,走行に伴う力覚負荷などを再現性よく提示出来る実験環境が整った.
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今後の研究の推進方策 |
足漕ぎ車いす操作時の機械的インピーダンス推定について,計測系やアルゴリズムの改良を行い,より正確で安定的に推定を行える手法の開発を目指す.特に,推定の際に必要となる摂動の与え方に関して,足漕ぎ車いす操作動作により適した方法を見つける共に,麻痺のある利用者を対象とした場合であっても安定した結果が得られる手法の確立を目指す.本手法確立の後,健常者を対象として,足漕ぎ車いすの形状を改変した場合の機械的インピーダンス変化を評価し,車いすを効率よく駆動するための構造条件について調査を行う.この際,身長や筋力などの身体パラメータが漕ぎ効率にどのように関連しているのかを調べ,テーラーメイドな足漕ぎ車いすを製作する際に有用な定量的指針を与えるモデルの構築を目指す. さらに前年度に構築した追体験システムを用いることで,障害のある利用者についても機械的インピーダンスの評価を行う.先行研究では,ある動作の習得過程において,機械的インピーダンスの調整が深く関連していることが報告されている.このことから,麻痺のある利用者が足漕ぎ動作を行うメカニズムに関して,新たな知見を得られる可能性がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は技術的な打合せや学会参加が予定より少なかった.今年度行わなかった成果発表については次年度に実施する予定である.
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