研究課題
本年度は,慣性計測装置(Inertial Measurement Unit: IMU)を用いて健常側の関節軌道を計測し,マスタースレーブ動作によって自然な歩行 訓練ができる片麻痺リハビリ装置について,障碍者が使用するうえで問題となる機構の改良を行った.また,本研究にて開発した歩行訓練システムを用いて10名の健常者と3名の片麻痺患者に対する動作実験を行った.実験の結果,IMU の計測精度とアクチュエータの制御性能は良好な結果を示し,またロボットによるアシスト歩行の左右対称性を確認した.これにより,健側の動作を患側にフィードバックすることで,左右対称な歩行を可能にすることが実証された.FESに関しては,右大腿四頭筋を表皮電極で刺激した.関節角はモーションキャプチャシステムで測定し,歩行サイクル中の最大屈曲角から伸展までの振幅の再現性を評価した.運動の滑らかさは,角度ジャークコスト(AJC)を用いて評価した.その結果,股関節および膝関節の振幅再現率(%)はそれぞれ87.9±6.2(平均±標準偏差)および71.5±10.7であった.歩行周期の再生率は,股関節および膝関節についてそれぞれ99.9±0.1および99.8±0.2であった. FESを用いた結果とFESを用いなかった結果との間に統計的に有意な差はなかった.ロボットとFESでアシストする患側のAJCは健側のAJCよりも有意に小さかった.これまでに,片麻痺患者を対象として健側から患側への動作フィードバックとFESによる歩行アシストを試みた研究はなく,本実験により患側の動きの高い再現性を示した.本年度は,これらの結果をロンドンで開催された国際FES学会(IFESS2017)において発表できた.また,英文学会誌(Progress in Rehabilitation Medicine 2018)に投稿して掲載された.
1: 当初の計画以上に進展している
装置の開発と動作検証は順調に進み,これまでの結果を英語論文および国際会議において発表することが出来た.片麻痺患者に対する臨床試験は29年度以降に予定していたが,28年度に大学の倫理委員会の承認を得てることが出来たため,本年度は患者3人の協力を得て電気刺激に同期した試験も行うことができた.
本研究では健常歩行の左右対称性を利用した片麻痺患者用の歩行訓練ロボットを開発した.しかしながら,健側の動作フィードバックが片麻痺患者における歩行リハビリテーションにどれほど有効かは定かではないため,実際の片麻痺患者を対象とした長期的な臨床試験を行う必要がある.また,既存のリハビリテーション手法である BWSTT やその他のリハビリテーションロボットを用いた歩行訓練と比較することで,本装置の有意性を定量的に評価する.
医学部の委任経理金など共同研究者からの資金協力により装置製作費の一部を賄えたため,当初計画よりも開発費が掛からず,次年度使用に繰り越すことが出来た.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Progress in Rehabilitation Medicine 2018
巻: 3 ページ: 1-6
10.2490/prm.20180005