研究実績の概要 |
認知症高齢者の日常生活において、適切な動作の誘導・介助は快適な身体活動を促し、ひいては身体機能維持につながる。反対に適切とはいえない誘導・介助は、認知症の行動・心理症状(妄想、徘徊、興奮、暴言など)を引き起こす、あるいは悪化させる可能性がある。理学療法士は起きる、座る、立つ、歩くなど、日常生活の基本的な動作を維持・改善するための働きかけを得意とし、これによって対象者の動作の習得、身体機能の維持改善を図る。そこで、理学療法士が認知症高齢者にどのように関わり、理学療法を提供しているのかを調査する研究を計画した。 認知症高齢者の対応経験が豊富な理学療法士の治療場面を観察し、録画した。その録画画像を視聴しながら、理学療法士にインタビューを行い、理学療法プログラムおよびその背景、それぞれの場面で判断したこと、その他を話してもらった。インタビューは録音して後日、逐語録を作成し、質的記述的に分析した。理学療法士は認知症高齢者(クライエント)に対して、目的とする動作の遂行、安全な日常生活の獲得を支援する理学療法を提供していた。検査だけでなく、日常会話からもクライエントの認知機能を確認し、クライエントとの信頼関係を築く上で、クライエントにとって嫌な記憶を緩和することを常に考慮して関わっていた。これらの結果を学会発表(第5回精神・心理領域理学療法部門研究会, 2020年3月に開催予定であったが新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止)および論文化(投稿中)にて公表予定である。 認知症高齢者とその介護者に対するケアは複雑な側面を持つとされ、認知症に対する理学療法介入は現在、必ずしも一般的ではない。認知症高齢者に理学療法を提供する時の課題を整理することにより、認知症高齢者の生活機能維持とその介護者の支援にもつながると考えられ、今後も検討を行う。
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