研究課題/領域番号 |
16K01542
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小林 正義 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (80234847)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 自動車模擬運転 / 危険予測 / 脳血流反応 / 手掌部発汗反応 |
研究実績の概要 |
1.模擬運転テストにおける主観的危険度と手掌発汗反応の解析 健常成人26名を対象に運転映像を用いた模擬運転実験を行い,手掌部発汗反応を測定した.運転映像は,トラック追い越し,一方通行直進,一時停止1,一時停止2,交差点右折,自転車・歩行者横断が順に現れる6分間の市街地運転映像を使用した.手掌部発汗は各場面の10秒間の平均反応量を評価した.模擬運転後に4件リッカート尺度(0-3)を使い各場面の主観的危険度を評価した.主観的な危険度は,自転車・歩行者横断,トラック追い越し,一時停止2,交差点右折,一時停止1,一方通行直進の順に大きく(p<.001)有意差を認めた(Friedman Test,p <.01).手掌部発汗量はトラック追い越し,自転車・歩行者横断,交差点右折,一方通行直進,一時停止2,一時停止1の順に多く(one-way ANOVA,p <.01),主観的危険度の間に有意な正の相関(r=0.70)が認められた. 2.実車運転時の手掌部発汗反応と前頭前野脳血流動態の解析 健常成人5名を対象に,大学構内に設定した周回コースを実車運転した際の手掌部発汗反応と前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度変化量(Oxy-Hb)を測定し,模擬運転時の応答との異同を検討した.その結果,実車運転,模擬運転ともに,手掌部発汗と皮膚電位反射は交差点やカーブ等の危険場面・危険予測場面で増加した.前頭前野のOxy-Hbは実車運転,模擬運転ともに危険場面では減少し,危険を予測する場面では増加する傾向がみられ,反応量はいずれも実車運転時で大きい傾向がみられた.これらの結果から,模擬運転時の手掌部発汗,皮膚電位反射,前頭前野脳血流変動は,実車運転時と同様の応答特性を示すことが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発中の模擬運転テストにおいて,咄嗟に危険を回避する場面では,全例で手掌部発汗と皮膚電位反射の増加がみられる.しかし,潜在する危険を予測する場面では,反応に個体差が生じやすく,被験者が危険を予測したか否かについての判定が難しいという問題があった.そこで,これまでの研究成果をもとにし,模擬運転テストにおいて「潜在的な危険を予測する場面では手掌部発汗と同時に前頭前野のOxy-Hb濃度が増加する」という仮説を立てた.研究計画に沿って平成28年度はウェアラブル型光トポグラフィ(WOT-100)を導入し,模擬運転テスト時の手掌部発汗反応と皮膚電位反射と同時に,前頭前野のOxy-Hb濃度変化を測定した.健常成人31名を対象とした模擬運転テストを実施し,ランナー接近,ボール飛び出し,人飛び出し等の「危険場面」では,手掌部発汗は増加を示す一方,前頭前野のOxy-Hb濃度は減少を示し,両者間に有意な負の相関があることを確認した(r=-0.923,-0.886,-0.467,p<.001).また,自転車追い越し等の潜在的な「危険を予測する場面」では,手掌部発汗とOxy-Hbはともに増加し,有意な正の相関(r=0.896,p<.001)を示すことを明らかにした.次いで平成29年度は,研究実績の概要に記したように,模擬運転テストにおける被験者の主観的危険度(認知)と手掌発汗反応の関連性,および実車運転時の手掌部発汗反応と前頭前野脳血流動態の解析を行い,開発中の模擬運転テストが被験者の危険認知機能を評価する検査として概ね妥当であることを検証した.
|
今後の研究の推進方策 |
1.判定プロトコルの検討と解析ソフトの作成 これまでの研究成果をもとに,被験者の危険認知(予測)能力を手掌部発汗反応と皮膚電位反射から予測し,ハンドル,アクセル,ブレーキの操作反応と共に評価する模擬運転テストの判定プロトコルを作成する.具体的には,研究者がこれまでの基礎実験から得ている若年者100例,高齢者100例ほどの模擬運転データをもとに,運転映像の場面毎に各パラメータの標準値を求め,手掌部発汗,皮膚電位反射,ハンドル,アクセル,ブレーキ反応の有無,および反応量,応答潜時等から,模擬運転テストにおける被験者の認知行動を判定するプロトコルを作成する.解析ソフトの作成は専門業者に委託し,既存の模擬運転テストに組み入れる仕様とする. 2.研究成果の発表と次期研究計画の策定 平成28,29年度の研究成果を関連学会で発表し,次期研究計画の策定に向けて専門家との意見交換を行う.既に①,②の演題が採択されており,他に手掌部発汗反応,皮膚電位反射の評価に関する演題を第26回日本発汗学会総会(神戸)にて発表予定である.①小林正義,岩波潤,佐賀里昭,百瀬英哉,大橋俊夫:模擬運転テストにおける主観的危険度と手掌発汗反応の関係.第52回日本作業療法学会(名古屋),2018年9月.②岩波潤,小林正義,佐賀里昭,百瀬英哉,大橋俊夫:高齢者の注意機能と模擬運転テストにおけるブレーキ操作と手掌発汗反応との関連性.第52回日本作業療法学会(名古屋),2018年9月.
|