研究課題/領域番号 |
16K01560
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
瀬島 吉裕 岡山県立大学, 情報工学部, 助教 (40584404)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 瞳孔反応 / ヒューマンインタフェース / ヒューマンインタラクション / コミュニケーション / 画像処理 / メディア表現 / 感性情報処理 |
研究実績の概要 |
本研究では,「(1)快不快情動を伴う瞳孔反応のモデル化」,「(2)アニマル型瞳孔反応ロボットの開発」を主要テーマとして進めている.本年度は,昨年度実施した(1)の実績に基づいて,(1)と(2)を平行して研究開発を行った. (1)では,快情動の表現として挨拶に着目し,情動喚起後における発話時の瞳孔反応を計測・解析した.具体的には,「おはようございます」を対象として,文字列を音読する発話と,快晴画像による情動喚起後の発話を比較した.被験者は本学学生男女24名であった.実験の結果,情動喚起を行った後では,発話における基本周波数が上昇していることから,強い情動を伴って発話していることを確認した.さらに,音読する発話では瞳孔面積が通常時と比較して拡大し,情動喚起後では顕著に拡大することが示された.この知見に基づいて,瞳孔反応は発話音声に同調して拡大反応することから,情動伝達や場の盛り上がり等の情動インタラクションのモデル化を目指して,熱伝導の原理を導入した情動伝達を促進するための瞳孔反応生成モデルを開発した.このモデルは,発話音声のON-OFFに同調して瞳孔反応を生成する.とくに,モデルの各パラメータを制御することで,瞳孔反応の生成タイミングや大きさ,速度等を変更することができ,情動の強弱表現を生成できる. (2)では,これまでに開発してきた瞳孔反応インタフェースを用いて,情動表現を生成する瞳孔反応システムを開発した.このシステムは,対話者が発話すると,上記の瞳孔反応生成モデルに基づいて発話音声に同調して瞳孔反応を生成する.このシステムを用いてコミュニケーション実験を行った結果,強い情動表現となる瞳孔が顕著に拡大するモードが「親近感」「熱意」「感情表現」の項目で高く評価され,瞳孔反応による情動伝達の強調効果を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,「(1)快不快情動を伴う瞳孔反応のモデル化」と「(2)アニマル型瞳孔反応ロボットの開発」を平行して研究開発を行った.その成果として, 1)強い情動表現を行う場合には,瞳孔面積が顕著に拡大することを定量的に示した. 2)情動伝達や場の盛り上がり等の情動インタラクションのモデル化を目指して,熱伝導の原理を導入した情動伝達を促進するための瞳孔反応生成モデルを開発した. 3)これまでに開発してきたプロトタイプシステムを応用展開し,情動伝達を強調する瞳孔反応システムと機構的に瞳孔反応を生成する瞳孔反応ロボットを開発した. 4)コミュニケーション実験により,瞳孔反応を用いた情動強調が効果的な情動伝達を実現することを示した. が得られた.これらのことから,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究知見および予備実験による調査より,人間の瞳孔反応は,快不快(快適性)による影響よりも,覚醒度への影響が大きく,かつ覚醒度に関連付けた情動表現が情動伝達を強めることを明らかにしてきた.本研究の目的は,瞳孔反応が認知症予防・予測のための客観指標化と成り得るかを検討するための基礎基盤システムの開発であることから,当初予定していた不快情動による影響の調査ではなく,覚醒度に関連付けた瞳孔反応をより詳細に調査・検討することで,真に目的を達成できると考えている.そのため,今後の研究計画として,平成30年度ではこれまでに開発・蓄積してきた知見を統合し,共感コミュニケーションを制御できるシステムを開発していく.そして,情動的伝染によりもたらされる共感コミュニケーションの効果を,研究室のモデル実験だけでなく,デモ展示等の社会実験を通じて広く検証していく.具体的には,これまでに開発してきたプロトタイプシステムを応用展開し,ユーザに共感してくれる心地よさを感じるコミュニケーションシステムへと昇華していく.とくに,外観だけでなく,触り心地などの“質感”を伴ったアニマルロボットとして親しみやすさを施すことで,アニマルセラピーの相乗効果を図る.加えて,接触センサをアニマルロボットに導入し,瞳孔反応とタッチケアによる相互作用を構成的に解析することで,瞳孔反応を行うアニマルロボットの有効性を検証する.さらに,介護施設等のフィールドと連携して,開発したロボットシステムを用いて積極的にかかわるロボットの効果を多面的に評価する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究旅費(海外渡航)が別途確保できたため,全体としては予定していた支出よりも少なかった.この差額分については,国内外で開催される学会での研究成果発表に関する大学院生(岡山県立大学大学院 情報系工学研究科 システム工学専攻 前田涼介)の旅費等に当てる.
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備考 |
日本子ども学会優秀発表賞受賞,電子情報通信学会中国支部連合大会奨励賞,電気学会優秀論文発表賞受賞
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