研究課題
開発した装具荷重計測システムを用いて、8名の片麻痺者と6名の健常者の歩行およびトイレ立ち上がり動作での測定・分析を実施した。装具荷重計測システムでは、従来測定されたことがないと考えられる足の足底と装具の足底部分の間の荷重を測定することが可能であり、これにより歩行の立脚相のみならず装具および足が空間上を移動する遊脚相中も装具にかかる荷重を測定することができる。同システムを用いて片麻痺者と健常者の歩行中の荷重状態を調べた結果、遊脚相中の足関節周りのモーメントについて両者に有意な差があることが分かり、麻痺の有無が遊脚相中の足の動きにも影響があることを確認した。一方トイレの立ち上がり動作についても、片麻痺者と健常者において腓腹部に設置した荷重センサの値に有意な差が見られた。また、同時に3次元スキャナ、3DCAD、シミュレーション(ANSYS)、3Dプリンタを使用した、義肢装具士がコンピュータ上で設計を行う“半自動装具設計製作システム”の開発も進め、生体形状情報処理と装具評価手法についてはさらに研究の余地があるものの、システムの多くの基板要素についてはほぼ構築できたと考える。これらの成果は、雑誌Advanced Experimental Mechanicsに原著論文として公開するとともに、日本機械学会学会学術大会等でも発表を行った。また、現在、立脚相での装具にかかる荷重状態の分析と装具にかかる荷重と装具の変形状態との連関性については、原著論文として学会誌(日本設計工学会)に投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
装具歩行に対し、昨年度までは歩行立脚相中の計測が中心であったが、本年度、歩行遊脚相およびトイレでの立ち上がり動作中のデータを分析することができた。また、今年度は、14名という多くの被験者での歩行実験も実施でき、それによる立脚相・遊脚相についての多くのデータにより様々な知見を得ることができた。同解析データは、論文として掲載されたものの他、現在投稿中のものもある。また、昨年にも記載したとおり、半自動装具設計製作システムにおいて、プラスチック短下肢装具のような大きな形状をポリプロピレン樹脂で製作する技術を有する企業の協力が得られ、これにより種々の形状の装具が製作可能となったことにより、研究は大きく進展した。
本研究では、①身体形状測定→②装具基本設計→③装具形状の変更に伴う設計変更→④荷重に基づく有限要素解析→⑤適する荷重や応力状態が得られる形状の設計→⑥3Dプリンタによる装具の製作→⑦製作装具による試歩行(評価)→⑧改良→⑨最終モデル製作といった一連の基盤技術の確立を目標としている。もう一点は、これら設計を支援するための基盤技術として、⑩装具歩行中の立脚相での荷重データ計測と分析、⑪遊脚相中の荷重データ計測と分析、⑫トイレ立ち上がりなどの動作中に装具にかかる荷重データ計測と分析、を目標としている。この中で、②の一部、③、④、⑥は、昨年度ほぼ基本技術は確立している。本年度はそれらの技術をより確実なものとする実験や⑥に係る3Dプリンタによる装具製作等を実施し、さらに、製作装具を使用した⑤に関連する技術を蓄積し、⑩、⑪、⑫についても実験等を行った。最終年度は、これら得られた技術をより確実なものとするための研究を進めるとともに、残された①、⑦、⑧、⑨を進め、当該研究における技術を確立させたい。
すべて 2017
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Advanced Experimental Mechanics
巻: 2 ページ: 147-152