研究課題/領域番号 |
16K01580
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中後 大輔 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (90401322)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 起立支援 |
研究実績の概要 |
本年度行った研究概要は,以下の通りである. 1)起立能力モデル論の構築 1-1) 身体能力と規範起立動作パターンの関係性の解明 理学療法士に,日常生活で起立動作に支障がある高齢者を起立補助してもらい,高齢者の身体の動きおよび床・椅子にかかる力,理学療法士が与える支援力の向きと大きさを,モーションキャプチャ装置,フォースプレートおよび理学療法士と高齢者双方に装着した体圧測定装置を用いて測定した.同時に,大腿直筋,僧帽筋の筋電波形も測定した.これらのデータから得られる身体の動きと高齢者の筋力の弱り具合,弱っている箇所の情報を比較することで,理学療法士による規範起立動作と高齢者の身体能力の相関性を抽出した. 2)筋力駆動特性推定法の開発 2-1) 多変量計測法とその表現法の確立 1)を実施するにあたり,既に研究室にて構築していた生体計測システムを,遠方での介護施設における計測実験に使用できるよう可搬性を重視して再設計した.特にモーションキャプチャシステムは,限られた設置スペースおよび設置時間で使用できることを協力施設側より強く求められたため,計測装置としてMicrosoft社製のKINECTセンサを採用した.また人間検出および計測では,KINECTセンサの持つ人間検出機能に加えて,赤外線反射マーカによる関節位置取得ができるアルゴリズムを新たに考案・実装して用いた.さらに,支援装置のコントローラ・センサ間をOSに依存しないミドルウェアであるCORBAを用いてEthernet(有線及び無線)で接続し,時間同期を確保しながら,支援装置の動作情報および各生体情報をネットワーク内に設置した中央サーバーで集中的に記録・管理する手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,本来今年度において,「1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化」を完了させる予定であった.しかし,以下の理由のため「2-1) 多変量計測法とその表現法の確立」を先行して実施する必要が生じ,その結果,遅れが生じた. 本研究では,「1-1) 身体能力と規範起立動作パターンの関係性の解明」を本学の実験室内にて実施する予定であったが,研究協力者の要請により先方の施設内で行うこととなった.しかし,本研究用に申請者が準備していた計測装置は移動を考慮したものではなく,装置を設置するための広い場所と,設置した装置のキャリブレーションを行うための準備時間が必要であり,先方の施設内でそれを行うことは困難であった.そのため,来年度以降に予定していた「2-1) 多変量計測法とその表現法の確立」を前倒しで実施した.本来の要求項目である“開発中の起立支援装置と一体となった計測情報の一括処理性能”に加えて,遠隔地で速やかに計測実験を実施できるために,“設置場所が少なく,キャリブレーションが短時間で終わる”計測システムの開発に取り組み,これを実現した.開発したシステムは先方の施設内において30分以内の設置準備にて,安定した計測が可能であり,このことは今後,実際の高齢者に協力頂く実験において非常に有効であると考えている. 以上より,「1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化」の実施が遅れる一方,「2-1) 多変量計測法とその表現法の確立」は先行して実施しているため,研究全体では進捗に遅れはないと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,以下の方針に従って研究を遂行する予定である. 1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化 “現在までの進捗状況”で述べたように本年度中に実施ができなかったが,「2-1) 多変量計測法とその表現法の確立」が先行して終了したことで,来年度は実施する予定である.具体的な実施内容は,「1-1) 身体能力と規範起立動作パターンの関係性の解明」にて記録した筋電波形データから,シナジー解析を用いて筋肉の協同発揮現象を抽出し,起立動作を複数の基本動作に分割する.身体力学的な状態を模倣する人間モデルに,「1-1) 身体能力と規範起立動作パターンの関係性の解明」にて抽出した高齢者の生体情報と理学療法士の支援方策を入力として与え,基本動作を再現することで,その基本動作を身体力学的に成立させるために必要な能力,より具体的には動作を実行するため必要な各部位の筋力駆動特性(強度,可動域,反応速度)を定量的に明らかにする. 2-2) 筋力テストによる特性推定法の開発 「1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化」にて構築された起立能力モデルにおいて,特定の筋力駆動特性が必要とされる動作を複数見いだし,それらを組み合わせて筋力テスト用の起立動作パターンを開発する.例えば,ある部位の筋力強度は要求されるが,他の筋力駆動特性はさほど要求されない動作を試すことで,その部位の筋力強度推定が容易になる.さらに,開発した筋力テスト用起立動作パターンを,すでに本年度前倒しで開発した計測システムを用いて起立支援装置にて高齢者に試行し,その生体情報を計測する.その結果を基に,各テスト動作における高齢者の反応,より具体的には各動作への適合度合いから,その高齢者個人の各部位の筋力駆動特性を推定する手法を開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況にて説明したとおり,本年度実施予定であった「1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化」を来年度実施とすると共に,来年度実施予定であった「2-1) 多変量計測法とその表現法の確立」を本年度に実施したため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は,本年度実施予定であった「1-2) 筋肉協同発揮現象に基づく起立能力モデルの確立と体系化」を実施する予定である.
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