研究課題/領域番号 |
16K01593
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小宮山 伴与志 千葉大学, 教育学部, 教授 (70215408)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歩行運動 / 高周波電気刺激 / 直流電気刺激 / 歩行周期 / 可塑的変化 |
研究実績の概要 |
平成28年度における研究では、トレッドミル歩行時(速度4km/h)に足底部に対する高頻度電気刺激によって引き起こされる歩行周期の可塑的変化が、事前の大脳皮質運動野に対する直流電気刺激(tDCS)によってどの様に修飾されるかについて検討した。 被験者は健康な成人男性5名であり、実験は倫理委員会の承認を得るとともに、被験者に事前に実験の目的と方法を十分に説明し、実験参加の同意を得た後に実験を行った。 筋電図は、前脛骨筋、内側腓腹筋、大腿二頭筋、大腿四頭筋からアクティブ電極による表面誘導により導出した。大脳皮質運動野(M1) に対するtDCSは、トレッドミル歩行開始前に、座位にてM1上の電極を陽極、陰極もしくは偽刺激として20分間(刺激強度2mA)与えた。3種類の異なるtDCS刺激による実験は、3日以上間隔を開け、異なる日に行った。足底面刺激は内側前方部に1ms幅の矩形波電気刺激を333Hzで刺激時間200ms、歩行周期の接地相後半から離地相前半の切り替え期間に与えた。歩行周期は、足底拇指部と踵部に設置した圧力センサー(FSR)の信号をオフラインで解析した。筋電図信号等のアナログデータもA/Dコンバータを介してコンピュータに取り込み、ハードディスクに保存した。 偽刺激を事前に与えた場合、トレッドミル歩行時の接地相から離地相の切り替え期に、足底部に対する高頻度電気刺激によって、接地相、離地相ともに漸増し、結果として歩行周期は有意に延長した。また、陽極tDCSの場合、この歩行周期の増大効果が促進し、一方陰極tDCSは、歩行周期の延長効果は見られなかった。 これらの結果は、直流電気刺激によって引き起こされた大脳皮質運動野の興奮性変化は、足底部内側前方部に対する高周波電気刺激によって引き起こされる歩行周期の変化に対する効果を促進したり、減弱させる効果を有する事を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歩行周期の接地相後半から離地相前半に、足底面内側前方部に高頻度電気刺激を与えると、接地相ならびに離地相が延長し、結果として歩行周期全体が延長されることが、我々の先行研究で明らかになっている。平成28年度の申請課題研究では、トレッドミル歩行の開始前に直流電気刺激によって大脳皮質運動野の興奮性変化を引き起こし、その後の足底部内側前方部に対する高周波電気刺激によって引き起こされる歩行周期の変化がどの様な修飾を受けるか検討した。その結果、偽tDCS刺激によって、これまでの我々の先行研究成果が再現できることを確認できた。加えて、事前の大脳皮質運動野に対する直流電気刺激による興奮性変化は、足底部に対する高頻度電気刺激によって引き起こされる歩行周期の可塑的変化を促進もしくは減弱させる効果を有する事を明らかにすることができた。一方、本年度は皮膚反射に対する効果は観察できなかったが、歩行周期の変化に関する可塑的な変化が観察できたことは非常に大きな進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、tDCSは今年度と同様に、偽、陽極ならびに陰極刺激を用いる。一方、高周波電気刺激は、歩行周期の離地相後半に与え、歩行周期に対する効果を検討する。平成28年度はtDCS刺激として、刺激強度2mA、刺激時間20分としたが、この刺激条件が有効な効果を発現させる、必要かつ十分条件であるか否かは不明である。従って、進捗状況によっては、この刺激条件(刺激強度、刺激時間)に変更を加え、最大効果が効率的に得られる刺激条件を検索することも重要と考えられる。 加えて、進捗状況が順調である場合には、足底部に対する電気刺激部位を内側前方部に加え、踵部に対する効果も検討したいと考えている。これらのデータが揃うと、足底部に対する高周波電気刺激による歩行周期の可塑的変化のうち、接地相と離地相に対する延長もしくは短縮効果を独立して引き起こす条件を決定することが可能となるものと考えられる。
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